思うことはいつも

生活していて感じたことや触れたもの

2021年10月の記録

柴田聡子の「雑感」が凄い。

固有性とか、セルフコントロールとか、インディー精神とか、他者との断絶とか、表現の可能性とか、どこまで行ってもまとわり付く行政への怒りとか、いろんなレイヤーのテーマが、「雑感」としか言えないようなとりとめのない言葉の連なりに詰まっていて、でも確かな詩情を持って歌詞として成立している。柴田聡子という作詞家と同じ時代に生きれることを、もっと大げさに喜んだほうがいいのかもしれない。

10月はいつにも増して国内の音楽ばかり聴いた1カ月だった。
家主とザ・なつやすみバンドのライブを月見ル君想フで観る。家主のライブを見るのは今年で3回目だけど、見るたび「2021年にこんな最高なロックバンドがいるなんて!」と感動してしまう。なつやすみバンドも、先日のビルボード公演とは違う、ひさびさに見るライブハウスモードのなつやすみバンドでとてもよかった。「喪のビート」を聴けたのがうれしい。

WWW Xで開催されたYeYeとHomecomingsのツーマンに行ったのだけど、その日は何故かやけに心がすさんでいたので、そんな状態でホムカミのライブを見たらえらく感動してしまった。BPM低めのメロウな楽曲を中心にしたセットリストも、テンピュールマットレスのごとく自分の心に驚くほどフィットした。「やさしいだけでうれしかったよ」って言葉、とてもさりげなくて、ストレートで、でもその中にとんでもない批評性と人を駆動させる力があって、本当にすごい。「Cakes」の「こうならないように歩いてきたのだ」といい、福富さんの歌詞は平易な並びの言葉の中にとんでもない魔法を宿してしまうなと思う。

折坂悠太が3年ぶりに満を辞して出したアルバム「心理」が当然のように素晴らしくてうれしい。重奏ならではのふくよかな演奏に、「平成」からさらにアップデートされた歌の強さ。折坂悠太の音楽は、怒りや悲しみを声高に叫ぶのではなくて、当たり前のように怒り、当たり前のように悲しみ、当たり前のように悼んでいるのがいい。そしてそれが今のリアルな姿なのだと思う。

Yogee New Wavesはカッコよすぎて素直に聴けない自分もいたのだけど、新しいアルバムを聴いたらやっぱりとんでもなくウェルメイドなロックで、なんだかんだ最高ですという気持ち。しかし、大学生の頃「Climax Night e.p」を貸してくれたバイト先の先輩の名前が思い出せずに思い出迷子にハマってしまった。丸眼鏡にボブの、ステレオタイプサブカル女子という感じだったのだけど、やたら話が面白かったので僕はひっそりと懐いていて、ヨギーのCDを貸してくれたお礼にシャムキャッツの「たからじま」を貸した。

さとうもかのアルバムは「いとこだったら」ばかり聴いている。兄弟や家族のような関係性に歯がゆさを感じるのではなく、結ばれることのない恋人に「いとこだったら」と思う歌詞はありそうでなかった気がする。シンプルなトラックもとてもいい。

元バレーボウイズのシュウタネギ率いるWANG GUNG BANDのアルバムが、肌寒くなり始めた夜の街に合ってとにかく気持ちいい。シュウタネギと愉快なクルー含め、歌に対するまっすぐなアプローチに好感。シュウタネギと愉快なクルーの、歌の強度と大所帯な編成が醸し出す多幸感、なんとなくジャポニカソングサンバンチを思い出す。
ayU tokiOがプロデュースした太田貴子の31年ぶりアルバムは、ayU tokiOレトロフューチャーな音像がとんでもない形で爆発した奇盤。
bjonsのボーカルは奥田民生にも聞こえるし、たまに桜井和寿にも聞こえて面白い。槇原敬之の新アルバムも改心の傑作でした。

Twitterを相互フォローしていて、たまにブログを読ませていただいている方が街をテーマにしたプレイリストを公開していて、とてもよかったので自分も作ってみた。なかなか気に入っている。

トリプルファイヤー吉田靖直の「ここに来るまで忘れてた。」を読んだのだけど、その中の“音楽好きの姉の目を気にしてゆずを聴かなくなる”という一編がとてもよかった。みんなそうして、思春期に入るとともにゆずを卒業していくんだな。かく言う自分もその1人なのだけど、「境界線」「街灯」「方程式2」「朝もやけ」をはじめとする初期の岩沢曲は今でも大好きで、特に「始発列車」はいまだに心のやわらかい場所を刺激する曲第1位だ。どの曲もやたらと居心地悪そうで、神経質丸出しな歌詞と声に思春期目前の自分はとても安心していた気がする。いつだか見た、シャムキャッツの夏目くんが「方程式2」歌ってる映像もよかったな。

なんとなくエッセイが読みたい気分になったので、芥川賞候補にもなったくどうれいんによるエッセイ「うたうおばけ」を読んだ。「私vs(笑)」が「好きな言葉は『バールのようなもの』」「『UNOって言ってない』って言う人嫌い」レベルの自意識でキツかったのだけど、まつ毛屋のギャルの「夏って、でっけー目で見たいもの、いっばいあるじゃないですか」がとてもよかった。
北村紗衣「批評の教室」、批評というものの在り方や作法をとても丁寧に紐解いていて読みやすいし面白い。

名作漫画というものをことごとく通過せずに生きてきたので、たまには何か読もうと思い、手に取ったのはハロルド作石「ゴリラーマン」。EMCの「給料日前で金ないし ゴリラーマンまとめて読むか」というフレーズくらいでしか知らなかったのだけど、とても面白かった。友情漫画や熱血系不良漫画になりきらないドライさがとても心地いい。
あと、この感じで読んでないと知られると目に見えてガッカリされる「よつばと」と、ついにちゃんと向き合っている。かつて大嫌いだった友人と、かつて片想いし続けた女性がこの漫画を大好きだったので、そのことばかり思い出して変な気持ちになる。

M-1 3回戦の動画が公開されてるけど、全然見れていない。1日だけ会場に見に行ったのだけど、相変わらずシシガシラがたまらなく面白かった。
あと最近演芸おんせんが大好き。このネタもラフターナイトのネタも、言語化できない自分のフェチのような部分を猛烈にくすぐられてしまう。

渋谷HUMAXシネマで「ひらいて」を観た。後半30分が抜群に面白い。ある人から見たら暴力的に思える行動が、誰かの心を文字通り“ひらいて”いくという、そのラストのために過剰なまでに遠回りする語り口もまたすごい。美雪に「反省してないんでしょ」と言われてすごすごと橋を引き返した愛が、校舎と校舎をまたぐ通路を駆けて渡るラストの美しさ。自分は、すべての表現はこの世に存在していない(と思われるような)オルタナティブな関係性を描いてほしいと思っていて、そういう意味で「ひらいて」は100点満点の映画だったのではと思えてしまう。
「DUNE」はIMAX体験としてすごく新鮮だったのだけど、その興奮が3時間近く持続するかというと、うーんという感じでした。

選挙特番は太田光出演のもの含め見る気になれなかったので(もちろん投票行って外食はしたけれど)、開票日は部屋の明かりをすべて消して彼女と一緒に、YouTubeで公開された「わが星」を見た。すべてがどうでもよく思えた。

10月でもっとも好きなあるあるは、歩道を歩いてる時に、駐車場から出ようとしてる車に進路を塞がれて、車の後ろに迂回して通ろうとするけど、迂回してる途中で車が発進して、「2.3秒待ってれば迂回せずにまっすぐ行けたじゃん」ってなる でした。