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GOMES THE HITMAN『memori』

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昨年12月、GOMES THE HITMANの14年ぶりのアルバム『memori』が発売された。これが単なる復帰作におさまらない、とても素晴らしいアルバムだ。

歌詞を持たないアカペラの『metro vox prelude』(パパパコーラス!)に続いて、リード曲である『baby driver』が始まると、ギター、ベース、キーボード、ドラムが順番に入ってきて、一つのバンドアンサンブルを奏で出す。こんなにも復帰作にぴったりな始まりはないだろう。

『baby driver』はその名の通りドライブによく似合う軽やかなギターポップだ。その曲中で彼らは理由もなくどこか遠い場所を目指す。そしてその遠い場所が「海」であると明かされた瞬間、僕はたまらない気持ちになってしまったのだ。

彼らにとっての「海」が、単なる海ではないことは、約20年前のアルバム『down the river to the sea』の歌詞カードに書かれたリード文を見てもらえればわかるはず。アメリカの児童文学のようなリズムに、目の前まで香ってくるような夏のにおい、もうこの世で最も好きな文章の一つなので、全て引用してしまいます。

川を下って海へ行く。

僕らにはミシシッピ川や聖なるガンジスもない。

僕の回りにはハックル・ベリイフィンもいないし、相棒ジムもいない。

それでも川を下って海へ行く。魔法を信じて川を下る。

サバービアを抜けていく。寒い夜を越えていく。

ハミングで真夏の方角へ。

センチメンタル・ジャーニーの途中でもう一度あの娘に会えないかな。

照りつける太陽に僕らの舟は溶けてしまいそう。

涼しい風、プラムの実と甘い珈琲。

つまるところ、最後に残ったのは僕らだけじゃないか。

つまるところ、僕らしか必要ないじゃないか。

海があればそれでよかった。

海があって本当によかった。

川を下って海へ来た!

ここで出てくる海というは、当時の文脈からしても、あの偉大かつ凶悪なアンファンテリブルが「行くつもりじゃなかった」と嘯いた、あの海であると言い切ってしまおう。90年代の日本のギターポップネオアコといえば、やはりFlipper's Guitarは無視できない存在で、GOMES THE HITMANもその例外ではなかったはず。それを裏付けるように、『down the river to the sea』の歌詞には、「意味のないセリフ」や「カレイドスコープ」など、フリッパーズ的なガジェットが散見される。(余談であるが、『会えないかな』に出てくる「黄色い花束」をフリッパーズ的な花束として解釈すると、とても切なく感動的だ。)

しかし、この名分の書き出しは「川を下って海へ行く」であるからして、「海へ行くつもりじゃなかった」なんていう嘘にまみれたシニカルな態度に真っ向から反発している。最終的には、「海があって本当によかった」なんていう全肯定さえしてしまっている始末。
フリッパーズの言う「海」というのは、後に小沢健二がソロで何度も口にする「本当のこと」と、そのままイコールで結ばれているはずで、つまりこの名分は、「確かなことなんて何もないけど、目の前の川だけを頼りに本当のことへと向かっていこう」という、何より大切なことが書かれているのです。

なんだかすっごく遠回りになってしまったけど、だからこそ僕は、GOMES THE HITIMANがまだ海を目指していると知ってとても嬉しくなってしまったのだ。時間の経過なんてものが生み出す無力さにからめとられることもなく、達観することもなく、4人を乗せた車は道なき道を超えて、海(=本当のこと)を目指していく。

もちろん、『baby driver』以外も素晴らしい曲ばかりだ。ソロ活動を経てますます充実した歌とメロディに、少年性と落ち着きが宿った声、そして復活作とは思えないような有機的で瑞々しいバンドアンサンブル。特に、『魔法があれば』はGOMES THE HITMANの面目躍如とも言える最高のギターポップ。美しいコード進行と気持ちのいい譜割りに、つい「そうそう、ゴメスってこういうバンドだよな!」と唸ってしまう。

そして、一見そんな軽やかなナンバーに目を奪われてしまうが、どちらかというとこのアルバムはダウンテンポのバラード調の曲の方が多く収録されている。そんな楽曲の中には、やはりそれでも、いくつもの『時間の経過で失われたもの』が描かれている。

なにひとつもう変わらないって思ってた
誰ひとり もう傷つかないと信じてた

懐かしい名前 思い出してゆく顔
かけちがった記憶と昔話

しかし、そんな時間の経過に対する祈りを込めた曲たちも、なんだかとっても抜けがいいのだ。
まだ若かったomniやrippleの頃とは違う、『新しい青の時代』以降の''祈り''だと思わせる何かがきっとある。

僕はまだこの街で あてもなく言葉を探しているから

そんな言葉がなんだかとっても輝いて見える。
ここには、時の流れとともに変わったものと変わらないもの、その両方がある。

MY FAVORITE ALBUM 2010-2019

MY FAVORITE ALBUM 2010-2019  続き

 

15.Base Ball Bear『C2』

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正直に言うと、僕はBase Ball Bearが好きではなかった。彼らの描く記号的な青春は、青春そのものより、青春を描こうとするアティテュードばかりが前景化しているような気がした。観測者は当事者になりえないという致命的な歪みを感じてしまっていた。そして、それこそが、徹底的に自分たちの視線で言葉を紡ぎながら、それでもやはりその限界を知っていたスーパーカーや、制服の少女がいる風景に溶け込むことができない、その隔たり自体を観測の対象にしていたナンバーガールとの決定的な違いだと。しかし、やがて彼らも年を取る。このアルバムで描かれるのは「青春を失ったあとに、それでも残る青春じみた何か」だ。「不思議な夜」「こぼさないでShadow」「レインメーカーを筆頭とする豊かなソングライティングに、大人になった僕らの”心の柔らかい場所”は締め付けられる。偏執的なまでに青春を描き続けた彼らだけが辿りつける、青春とは違った景色がここにはあった。
Base Ball Bear - 不思議な夜

 

14.フジロッ久(仮)『超ライブ』

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20年前に歌われた、「喜びを他の誰かと分かり合う それだけがこの世の中を熱くする」という言葉。あまりに説明的だけど、きっとすべてのポップミュージックはそんなスローガンの元に鳴らされてるはず。そして、そんな言葉をとっておきのソングライティングとユーモアで体現するのがフジロッ久(仮)だ。いつだって物事を正しい方向に動かすのは愛だけ。なんだかベタで恥ずかしいけど、そんな確信がチアフルでユーモラスな音楽に変わった瞬間に、革命は動き出すのだろう。

おかしなふたり -the queer couples- by フジロッ久〈仮〉

 

13.台風クラブ『初期の台風クラブ

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10年代のインディ的な洒脱さを漂わせながら、確実に血肉化された、theピーズを筆頭とする日本語ロックンロールのDNAがたまらなく魅力的。何かを諦めているのに、何かの終わりをじっと眺めているだけなのに、なんだかとっても爽やかな気分。こんな音楽をいつでもとっても愛おしく感じてしまう。
台風クラブ/春は昔

 

12.ミツメ『Ghosts』

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過ぎた時間や、いつか見た景色。忘れてしまった記憶や想い。そんないくつもの目に見えないけど確かにそこにあるものたちに、少しの不信感と愛着をもってこう名付けよう、「Ghosts」と。音楽がまだ名前のない感情や現象に形を与えるものだとしたら、ミツメの奏でる不穏さと瑞々しさが同居した音像は、他に表せない曖昧で神秘的なものたちを的確にとらえてしまっていると思う。終盤の不穏な空気から一転、湿っぽくも爽やかな音が鳴らされるラストのカタルシスに、僕はどうしても「成仏」のイメージを重ねてしまう。

 

11.サニーデイ・サービス『DANCE TO YOU』

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サニーデイ・サービスというバンドは、いつでも徹底して刹那主義を貫いてきたバンドで、このアルバムだって、他でもない”たった今”を踊るための音楽だ。踊りやすくミニマルな曲構成に、サウンドは海に反射する光のようにキラキラと輝いた爽やかなAOR。それでも、そんな爽やかな音楽にとんでもない怒りや失望を感じ取ってしまうのは何故なのだろうか。かつてのサニーデイサービスに横たわっていた、モラトリアムで甘美な諦観ではなくて、もっと大きく現実的な痛みが胸を突き刺す。当時の社会がこのアルバムを作らせたのか、当時の僕らがこのアルムをそのように聴いてしまったのかはわからないけど、紛れもなく、復活後の、”2017年のサニーデイにしか作れないアルバムであったことは間違いない。
Sunny Day Service - I’m a boy【Official Video】

 

10.カネコアヤノ『燦々』

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この10年間で最も強さを持った音楽だと思う。「隙間からこぼれ落ちないようにするのは苦しいね だから光の方 光の方へ」という言葉は、「神様を信じる強さを僕に 生きることを諦めてしまわぬように」という言葉や「笑えるように 笑えるように にじり寄んだっ! それは絶対余裕じゃない だから止めないんだ」という言葉と同じくらいの強さを持っている。この10年間で、それ程強い言葉を歌えた人間がどれだけいるか。そして何より、カネコアヤノはそんな強い言葉を歌うのに見合った貴重なフィジカルがある。

 

9.ラッキーオールドサン『Belle Epoque』

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「カーステレオ あの人の趣味で木綿のハンカチーフ これが最後の涙 十三回忌の母を訪ね 生まれ育った街へと スカイラインをとばす」という歌詞のあまりの素晴らしさに心を鷲掴みにされてしまいました。きっとこのスカイラインは型落ちのものか「わ」ナンバーなのでしょう。感情を極力排除したような素朴な歌声の裏で、ギターが激しく跳ね回りハイハットが小刻みに刻まれる。そう、ここにあるのはすべての時代が色褪せながら、それでも今を転がり生きていく、逞しさとは距離を置いた最高のロックンロール。このアルバムに宿る、やさしさと微かな熱を秘めた芯の強さは、いつの時代も誰かの胸を打ち続けると思う。
ラッキーオールドサン『さよならスカイライン』(Official Music Video)

 

8.Tomato n' Pine『PS4U』

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ディスコもファンクもクラブミュージックも渋谷系も80年代アイドル歌謡もメタルも、はたまたスキャットマンジョンまでも飲み込みながら、そのすべてをアイドルという土俵から一切はみ出さずにやってのけてしまうがトマパイの凄いところ。アイドルを''すべてをキャッチーに変換してしまう装置''として捉えた時に、トマパイを超えるグループは出てこないのでは。「ジングルガール上位時代」は10年代屈指のJ-popの傑作。

 

7.住所不定無職『GOLD FUTURE BASIC,』

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ひたすらに完成度の高い上質なポップミュージック集です。例えば山下達郎大瀧詠一のような偉大な先人達と比較しても遜色ないような、つまりそれはポップスの神様が味方してるとしか思えないようなクオリティのポップソングばかりなのです。もう何も言わずに『月曜21時に恋してる』『Happy Rain〜雨のハイウェイ大脱走〜』『ジュリア!ジュリア!ジュリア!』を聴けば、このアルバムが間違いなくポップスの金字塔であることがわかるだろう。こんなポップミュージックの大傑作がインディロックシーンから産まれたというのも面白い。
住所不定無職「IN DA GOLD,」MV

 

6.Lamp『ゆめ』

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AOR、ブラジリアン、シティポップ、ハーモニーポップなどを取り込みながら、全てが息のを飲む程に美しい。一曲目「シンフォニー」のイントロから最終曲「さち子」のアウトロまでずっと恍惚だ。林静一によるアートワークや『ゆめ』というタイトルも含めて、全てが完璧なまでに美しい、美しさの塊のような作品。あまりの音楽的な情報量の多さや複雑さから来る現実感のなさとか、表現の持つ社会性なんてものが、圧倒的な美しさの前では霞んで見える。それほどまでに美しく、強い。
Lamp 「さち子」【Official Music Video】

 

5.ザ・なつやすみバンド『PHANTASIA』

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いつか全てを忘れていく。そんな当たり前のことに胸を痛めてしまう、センチメンタル気取った僕やあなたの、取って置きの音楽という魔法。忘れたくない出来事をチャイルディッシュな楽曲に閉じ込めてしまう彼女たちに、「夏休み」という世界は驚くほどにぴったりだ。GRAND MASTER MEORIESの「全部忘れるなよって」という言葉を聴くたびに泣きそうになってしまう。全ての過去が今の僕やあなたを照らしますように。

 

4.柴田聡子『がんばれ!メロディー』

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誰よりも繊細で複雑な表現を続けてきた柴田聡子が、繊細で複雑にこんがらがったまま、キャッチーなメロディを手に入れてしまったのだから、これはもう確実に新しい扉を開いてしまっただろう。キャッチーなメロディにイリュージョンのごとく紡がれた言葉たち。そんな柴田聡子にしかない武器を手に、彼女は必死で世界とつながろうとしている。次々と生まれていく世界との摩擦の中で、それでも必死に躍動する言葉とメロディは何より力強く美しい。10年代屈指の名曲『涙』は、大事なことを全て歌ってしまってる。
柴田聡子「涙」(Official Video)

 

3.andymori『ファンファーレと熱狂』

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恥を忍んでハッキリ言ってしまえば、andymoriは青春なのだ。当時の音楽にハマりきれずに、斜に構えたツラで、終わりなき日常がどうとか言いながら90年代の音楽に憧れを抱いていた青臭い僕にとって、唯一andymoriだけがリアルだった。サカナクションでもアジカンでもなく、andymoriでなくちゃダメだったのだ。きっとこの感覚を持っていたのは自分だけじゃないと信じていて、そんな人達にとって何があってもandymoriはずっと特別なのだと思う。アルバムでいうとバンドの初期衝動をドキュメントした1stも素晴らしいけど、より作品的な2ndがやっぱり最高傑作。

 

2.山田稔明『新しい青の時代』

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とんでもなく普遍的な言葉とメロディで、刻一刻と過ぎ去っていく毎日の暮らしを切り取ってみせる、そんなあまりにシンプルな運動の連なりがあるだけ。でも、きっとそれが全てなのだ。山田稔明はそれだけで僕やあなたのごく平凡な日々の営みに、見たことのない景色を宿してしまうのだから。ほんのささやかな祈りとありったけの祝福とともに。長すぎる時を超えて、10年代という時代に産み落とされた、新しい希望と自由のレコード。
 

1.シャムキャッツ『AFTER HOURS』

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 春一番が吹いた日に、このアルバムが届いたという素晴らしすぎる音楽体験を、今でも昨日のことのように思い出してしまう。どこにでもあるささやかな風景を、神の視点と一人称をシームレスに行ったり来たりしながら切り取る革新的なリリックは、全てのフレーズが当時の社会に対してクリティカル。そして、そんなリリックを視界の開けた爽やかでメロウなロックンロールに変えてしまう、ソングライティングとバンドマジックのかけがえのなさ。2014年に大きな意味を持ったと同時に、この先も残されていくべき、時代性と普遍性を持った、僕らの生活にまつわるささやかな大傑作。
シャムキャッツ - AFTER HOURS

 

振り返ってみると、「生活」や「日常」なんてものを「世界」や「社会」みたいな大きな謎に結び付けるような作品だったり、どうしようもないセンチメンタリズムを飲み込みながら必至で微笑んでるような作品だったり、そんなものばかりです。
でもやっぱり、自分にとってこの10年間は完全にシャムキャッツの時代だったなぁ。ここにあるいくつものアルバムや、例えば片渕須直の『この世界の片隅に』や石山さやかの『サザンウィンドウ・サザンドア』や、なんならかが屋のいくつもの素晴らしいコントや、そんな沢山の10年代的な表現の全てを、つい’’AFTER HOURS的’’だと思ってしまう。そんな大きな勘違いを引き起こさせてくれる、最後の作品かもしれないです。

オマケとして、その他に好きだった作品を羅列しておきます。

・その他に好きだった作品(順不同)

ayU tokiO『恋する団地 EP』
安藤裕子『JAPANESE POP』
カーネーション『Multimodal Sentiment』
Caro Kissa『EVERY DAY』
クチロロマンパワー
SaToA『スリーショット』
Shiggy Jr.『Shiggy Jr. is not a child』
スピッツ『醒めない』
高橋徹也『The Endless Summer』
T.V. NOT JANUARY『ヤンキー発電所
中村佳穂『AINOU』
Nohtenkigengo『Never』
Hi,how are you『?LDK
蓮沼執太『メロディーズ』
蓮沼執太フィル『時が奏でる』
HAPPLE『ハミングのふる夜』
Panda1/2『上海へ行くつもりじゃなかった』
藤原さくら『green』
YUKIうれしくって抱きあうよ

MY FAVORITE ALBUM 2010-2019

 

2020年になり、2010年代が終わりました。ごく個人的なことを言うと、16歳から25歳という最も多感な時期を過ごした10年間でした。音楽をちゃんと聴き始めたのも10年代に入ってからです。
この10年間に出会った音楽はどれもこれも思い入れのあるものばかりなのですが、せっかくなので、この10年間で世に出たアルバムを、30枚選んでみました。レビュー的なものも添えて。
新しいものにワクワクできるのは25歳までなんて言説もあったりするので、こんなことができるのもこれが最後かもしれないですね。読んでもらえるととっても嬉しいです。

 

 

30.空気公団『僕の心に街ができて』

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きめの細かい麻のように柔らかくて風通しの良い、それでいて時折胸をチクリと刺すような作品。時間の経過とともに積み重なっていくものを「街」と表現してしまうところに、10年代的な感覚を感じたり。だけど何より、アルバムを締めくくる最後の言葉がこの作品を名作たらしめてると思う。諦めもそれ受け入れる強さや希望もこの言葉に詰まってる。
空気公団 "うつろいゆく街で" (Official Music Video Full Ver.)

 

29.星野源『エピソード』

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星野源が''スター''になる何年か前、まだひとりの男としてなんてことない人生の小さな物語を進めまいと歌っていた頃。シンプルな楽曲とアレンジ、柔らかくも力強い歌声や、随所に覗かせる死の匂い。そんなものに、音楽で自分と世界とをつなぎとめるような切実さを感じてしまって、今でも僕はこのアルバムが好きだ。
星野源 – くだらないの中に (Official Video)

 

28.OK!?NO!!『Party!!!』

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Cymbalsフォロワーという時点で贔屓目なしで見られないのだけど...Cymbalsが「Entertainment」という言葉で表していたものを、OK?NO!はもっとささやかで現実的な「Party」という言葉に書き換えている、その感覚もとっても好きだ。一瞬にして過ぎ去っていく、ささやかで刹那的な楽しさに満ちた瞬間。そしてそれが過ぎ去ったあとのどうしようもない寂しさもしっかりと描いてしまうところも、Cymbalsの精神を感じてしまう。
OK?NO!! 2nd Full Album 「Party!!!」

 

27.Enjoy Music Club『Forever』

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文化系の脱力感のあるラップはスチャダラパーで、モラトリアムを満喫する若者の等身大な感じはクチロロか。それでもEMCの歌のモチーフはその2組よりももっとミニマルで、「夏!クラブ!ナンパ!思い出!」なんてものではなく、コンビニ、バイオレンス映画、ヤフオク、パルム、ピザポテト、ゴリラーマンなんていうとても身近でなんてことない2010年代の若者が一度は手にしたことのある景色ばかりだ。そんなアルバムのタイトルが『FOREVER』なのが何より素晴らしい。

「いいトゥモロー」 from 1st ALBUM ”FOREVER“ 

 

26.加藤千晶『四つ角のメロディー』

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多くの教育番組の楽曲を手がけてきた加藤千晶のミニアルバム。このアルバムにも、「みんなのうた」や「おかあさんといっしょの楽曲が収録されています。1曲目『四つ角のメロディ』から、帰り道の夕飯のにおいを思い出すような郷愁に溢れてる。全体通して抑制の効いたホーンのアレンジや『ひげめがね賛歌』のナンセンスな感じも素晴らしい。こんな素敵な音楽がいつの時代も流れてますように。
みんなのうた「ゆきだるまかぞく」「四つ角のメロディー」

 

25.花柄ランタン『まともな愛のま、まほうの愛のま。』

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アコースティックなアレンジ中心のシンプルな歌モノなのだけど、聴くたび背景に芳醇な音楽性が浮かび上がってくる。ノスタルジーだけど今っぽいような、とても不思議な感覚。初恋の淡い気持ちや日常を歌ったと思えば、''本当のこと''も歌ってしまうし、夏の終わりをドラマチックに描いてしまう。『まなつのまじっく』と『やわらかパンクス』という全く異なるタイプの名曲を違和感なく並べてしまうあたりに、センスが光ってる。
花柄ランタン 「まなつのまじっく」Music Video

 

24.土岐麻子『PINK』

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土岐麻子にとってのシティポップが、単なる"都会的で洗練されたグッドミュージック"ではなく、"都市に暮らす人々の心根を映す音楽"として決定づけられた作品。やわらかい歌声に反して、サウンドはひんやりとした無機質さをたたえている。都市に暮らす人々の孤独を描いた作品は沢山あったけど、その中でも最もソリッドに切り取ったアルバムだと思う。
土岐麻子 / PINK

 

23.cero『WORLD RECORD』

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今や東京インディシーンを飛び越えて確固たる地位を築いているceroなのだけど、どんどん複雑でハイコンテクストになっていく前の、このアルバムが一番好きだったりする。自由で不安で何もないささやかな普通の暮らしと、どこかにあるはずの幻想的な世界の間で揺れる、豊かな音とシンプルな「うた」の美しさ。静かな暮らしの窓を開けると、それは街につながり、世界につながる。どこまでも。
cero / 大停電の夜に

 

22.Mr.Children『REFLECTION』

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大衆音楽としての自負とアーティスト性の間での葛藤や、予期せぬ震災なんてものを乗り越えながら、バンドとしてのダイナミズムを取り戻した本作。ソングライティングの充実度や音楽的なレンジの広さは近年屈指なのだけど、なによりここまで大きくなったミスチルが、結局バンドなんてものに帰って来たのに泣ける。一曲目「未完」の「自由 自由 自由!!」には声を出して笑ってしまったよ。
Mr.Children 「足音」Live from TOUR 2015 REFLECTION

 

21.Special Favorite Music『World's Magic』

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小沢健二がいない間、小沢健二的な音や言葉を紡いでくれた人たちが沢山いて、Special Favorite Musicもその一組だ。「神様」「光」「本当の夜」「手紙」「魔法」「美しさ」、そんないくつもの小沢健二的な言葉を紡ぎながら、代用品なんかではない新たな表現が再構築されている。弦楽器と金管楽器が入り混じったゴージャスなサウンドながら、地に足の着いた平熱の質感が素晴らしい。
Special Favorite Music - Magic Hour(Official Video)

 

20.Negiccoティー・フォー・スリー』

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所謂''楽曲派''アイドルファンに愛され続けた彼女たちが、このアルバムではアイドルというベールの向こう側にいる3人の成人女性として、その内面に徐々に切り込んでいく。そんな市井の女性としての目線も、全てをキャッチーにレプリゼントしてしまうアイドルな部分も託してしまえるのが、Negiccoというグループの強靭さだと思う。ストレートど真ん中のアイドルソングゴキゲンなガールズソウル、硬質なディスコサウンドという冒頭3曲のクオリティが突出している。
Negicco「ねぇバーディア」MV

 

19.aiko時のシルエット

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デビュー当時からaikoはいつだって、"時のシルエット"について歌ってきたのだと思う。「真夏の夜に腕から漂う日焼け止めのにおい」や「抱きしめられたときについた爪の跡」、そんないくつもの過ぎた時間の形跡たちが、時に私たちの背中を押し、時にどうしようもなく胸をかきむしる。天才的なポップセンスを持ちながら、いつまでもそんなことに翻弄され続けているから、だからaikoが好きなのだ。
aiko-『くちびる』music video short version

 

18.BUGY CRAXONE『いいかげんなブルー』

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人生も半ばに差し掛かり棘も抜けた人達が、ナイーブさを隠さずに、それでも必死に今や暮らしなんてものを肯定をしようとしている。そこに生まれた小さな祝福こそ、バンドマジックそのものだと思う。もうとにかく、センチメンタルを隠そうとしないナイーヴィティと、強くて軽やかな肯定力のバランスが抜群で、それだけで泣けてしまうのだ。『いいかげんなBlue』というタイトルも素晴らしい。
BUGY CRAXONE「いいかげんなBlue」Music Video

 

17.阿佐ヶ谷ロマンティクス『街の色』

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僕たちの生活圏内に漂うさりげない幸福感や、それにまつわるノスタルジックな心象風景を、ただひたすらにスケッチする。そんな愛おしい音楽が10年代には沢山あったけど、阿佐ヶ谷ロマンティクスが描く絵の色彩や筆致、描線の繊細さは、その中でもとびっきりに素晴らしい。今の家に引っ越してから一番初めに流したのもこのアルバムだった。一人で夕飯を作りながら『所縁』を聴いて、「これからこの家が、僕にとってもっとも阿佐ヶ谷ロマンティクスが似合う場所になるんだな」と思った。
阿佐ヶ谷ロマンティクス - 所縁 (Official Music Video)

 

16.平賀さち枝『さっちゃん』

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平賀さち枝は、「天気読み」から「春にして君を想う」の頃の小沢健二が集団で少女に乗り移ってしまったような存在だなと思ってしまう。すべてが終わりに向かっていくなんてことにいつだって意識を向けていて、だけどその視線はやっぱり市井に暮らす少女特有のもののような気もする。6畳間に射し込む春のうららかな日差しのような、儚さと心地よさ。
平賀さち枝 "恋は朝に"
  
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MY FAVORITE ALBUM 2019

年末なので、今年聴いた中で自分が好きだったアルバムを10枚選んでみました。

‪10.ナツノムジナ『Temporary Reality Numbers』‬


9.‪伴瀬朝彦『エモノ』


8.‪エイプリルブルー 『Blue Peter』


7.Hi,how are you? 『Shy, how are you?』 ‬


6.‪satoa『scrambled eggs』 ‬


5.‪コントラリーパレード『CONTRARY』


4.土岐麻子『PASSION BLUE』 ‬


3.‪ミツメ『Ghosts』 ‬


‪2.カネコアヤノ『燦々』 ‬


‪1.柴田聡子『がんばれ!メロディー』‬


柴田聡子とカネコアヤノの首位争いは、どちらが一番かを決めてしまうと自分の中の大事な何かが決まってしまうような気がしてとても迷ったのですが、やはり今でも柴田聡子のような音楽に心を動かされてしまいます。
この一年間、ここにある全ての作品を、『がんばれ!メロディー』なんて気分で聴いていました。‬
『がんばれ!メロディー』に関する詳しい思いはこちらで。
kashiwajun.hatenablog.com



以下、その他に好きだった作品です。(順不同)

‪さとうもか『Merry go round』 ‬
‪ナードマグネット『透明になったあなたへ』 ‬
‪ラッキーオールドサン『旅するギター』 ‬
‪Tempalay『21世紀より愛をこめて』
Kaede『深夜。あなたは今日を振り返り、また新しい朝だね。』 ‬
‪ザ・なつやすみバンド『Terminal』 ‬
スピッツ『見っけ』 ‬
シャムキャッツ『はなたば』 ‬
オカモトコウキ『GIRL』 ‬
‪グソクムズ『グソクムズ系』 ‬
小袋成彬『Piercing』 ‬
GOMES THE HITMAN『memori』‬

ゴメスの快心の復帰作や小袋成彬のアルバムはまだまだこれから聴き込んで行きたいですね!

柴田聡子『がんばれ!メロディー』

2019年がまもなく終わりを迎えようとしている。
2019年も好きな音楽が沢山あったのだけど、振り返ってみると柴田聡子の『がんばれ!メロディー』と共にあった一年だったなぁなんて思った。
この思いを忘れないように、柴田聡子とこのアルバムへの感謝を込めて、文章に残しておきたいと思う。

いきなりだけど、「生きづらさ」みたいな言葉を、ここ数年とてもよく耳にするような気がする。何なら自分も使ったりする。
それでも、人の抱える複雑さとか繊細さをそんなたったの5文字に押し込めないでくれよなんて思ったりもするし、「生きづらさ」を抱える人たちは、そんなステレオタイプな言葉の鋳型に押し込める力からどうにかして逃れないといけないような気もしている。

柴田聡子は、いつだってそんな「生きづらさ」を複雑で繊細なまま表現してきた一人だ。
しかし、今まで彼女の音楽を聴いてきたリスナーのほとんどが、一聴して今作のキャッチ―なメロディに驚き戸惑ったはず。
その変化のヒントとして、今作のインタビューで柴田聡子はこんなことを話している。

思っていることを伝えようと思ったら、頑張って伝えていかないといけない。
音楽だけじゃなくて、コミュニケーションについてもそういうことを考えるようになりました。
〈伝わる人にだけ伝わればいい?〉みたいに言われることがよくあるんですけど、そんなことは全然なくて〜

そう、今作の彼女は、複雑で繊細なまま、それでも世界としっかりつながろうとしている。
かつて、代表曲『後悔』で柴田聡子は、「手を取り合うこともないけど夢のようにただ楽しいね」と歌いながらも、「あぁ抱きしめていれば 抱きしめあってれば 自然と本気に 抱きしめてくれたら」と過去への祈りを激しくつづっていた。
しかしながら、今作では一曲目『結婚しました』から「離されない手を ただ離さないように」と歌っている。


他の曲でも彼女は、「目を見て言うよほんとうに 目を見ていうよほんとうに」「以心でしょ伝心でしょ 努力は大事でしょ」と歌う。

本谷有希子がインタビューで語っていた、

「生きづらい」のは、違う人同士が同じ世界で生きるうえで、当たり前のことだから。今さらなにを言ってんの、って。だから結局、じゃあそこで、どうやって生きるかなんだよな。

という言葉は本当にその通りだと思う。柴田聡子の『がんばれ!メロディー』は正にその、「どうやって生きるか」のアルバムだ。

ディスコミュニケーションだらけの世界で、それでもそんな世界とつながりながら生きていくには、必死で手をつなぎ、必死で目を見て何かを伝えることだけなのだ。そんな真摯さに僕はとっても胸を打たれてしまう。
キャッチーなメロディーに複雑な気持ちをたくしながら、そのメロディーが世界との橋渡しになるように、「がんばれ!メロディー」なんて応援したりして。
「つくり物のまつげから こぼれおちる涙のうしろを マツダの軽で追いかける 泥まみれの赤い靴」みたいな、ハッとするほど文学的で美しいレトリックももちろん健在だ。

最終曲に至っては、もうそのまま『捧げます』だ。
「愛ですべてが 変わったとしたら 変わるんだとしたら 捧げます!」という歌詞は、まるでこのアルバムの48分間の結論のよう。
「もっと気軽なスーツで相撲とっても 誰も怒らないし 誰も憎まないし」という歌詞も、全ての呪詛を軽やかに解いていくようでとっても素晴らしい。

今年新作をドロップした小沢健二も、かつてそんな存在だった。全てのブルーを受け止めながら、それでも「心すっかり捧げなきゃ いつも思いっきり伝えてなくちゃ」と高らかに歌っていた。


そんな往年の小沢健二と柴田聡子がそう遠い存在じゃないと思えてしまうのは自分だけだろうか。

というやや飛躍した余談は置いておいて、やはり触れずにいられないのは、屈指の名曲『涙』の存在だろう。


もう、ぶっちぎりで2019年のベストソングである。メロディーも歌詞もアレンジも、全てが言葉にできないくらい特別だ。この曲の素晴らしさを無理矢理言葉にしようとしたら、歌詞を全て引用してそのままになってしまう。そのくらい、この曲の歌詞は、絶対に言語化できないはずの部分を言語化してしまっている。形になるはずのなかった感情が、メロディーに音色に宿ってしまっている。
「この曲の良さがわからないやつは…!」なんて乱暴すぎる感想を25歳にして抱くと思わかなった。

でも、きっとこの曲の良さがわからない人の方が、幸せなんだろうなと思う。それでもやっぱり、僕はこの曲に心を打たれてしまう人間なので、涙を流しながら生きていくしかないのでしょう。

マツコ・デラックス山里亮太の不毛な議論に出たときに言っていた言葉を思い出す。
「鈍感で幸福であるぐらいだったら、敏感で不幸でいたい」って。

敏感で不幸な僕らが、それでもこの世界で生きていくための何かがこのアルバムには詰まっている気がします。
山ちゃんが蒼井優と結婚したのだって、目を見て伝えたからに違いないし。
おめでとう!山ちゃん。がんばれ!僕ら。がんばれ!メロディー。

小沢健二『So Kakkoii 宇宙』に関する愛憎入り混じった雑文


いきなりだけど、僕がこの世で最も嫌いなアルバムは中村一義の『ERA』です。この世で最も好きなアーティストの一人が中村一義でもありますが。だからこそ、あんな攻撃性剥き出しな中村一義は見たくないし、皮肉でも「死ねよ」なんて言葉は聞きたくなかった。田中宗一郎の「加害者意識が抜け落ちている」という言葉も言い得て妙だったと思う。プレイステーションくらいやってもいいと思うけど。
あと嫌いなアルバムといえば、andymoriの『光』とか、平賀さち枝の『まっしろな気持ちで会いに行くだけ』とか、どれも大好きな人たちへの愛憎入り混じったものばかり挙げてしまいます。

小沢健二の13年ぶりのアルバム『So Kakkoii 宇宙』も、まだ「嫌いなアルバム」と言い切れるほどの勇気はないけど、愛憎入り混じった困惑を覚えてしまう。
長い時を経て、大人になった小沢健二は、あの頃忌み嫌ったはずの、「難しい言葉を難しい言葉のまま喋る大人」になっていた。
難しいことを平易な言葉で軽やかに表現してしまえるのが、小沢健二の大きな才能の一つであり、小沢健二の表現の特別さの根幹だったと思う。
「今ここにあるこの暮らしこそが宇宙だよと今も僕は思うよ」ということを、「今ここにあるこの暮らしこそが宇宙だよと今も僕は思うよ」という言葉を使わずに表現してしまうことこそが、小沢健二が操るポップミュージックの魔法だったはず。
あの大名曲『天使たちのシーン』だって、今でも僕の心に焼き付いて離れないのは、「愛すべき生まれて育ってくサークル 君や僕をつないでる緩やかな 止まらない法則」という言葉より、「大きな音で降り出した夕立ちの中で 子供たちが約束を交わしてる」や「生命の熱をまっすぐに放つように 雪を払いはね上がる枝を見る」という言葉だ。そしてそれこそが、「神は細部に宿る」という''本当のこと''を体現していたと思う。

もちろん、素晴らしい部分も沢山ある。『高い塔』は小沢健二史上最もアーバンでファンクな歌モノでとてもかっこいいし、『薫る(労働と学業)』の、13年ぶりのアルバム曲とは思えないほど伸びやかでキャッチーなメロディは流石だ。全体を通してキレキレのストリングスにも胸を打たれる。
でも、やっぱり「君が君の仕事をする時 偉大な宇宙が薫る」なんてスローガンみたいな言葉より、例えばだけど、「誰かのために働く 土曜日の風が吹いてる」という言葉の方がポップミュージックの歌詞として優れているとハッキリ思ってしまうのだ。そのことが寂しくてしょうがない。

でもきっと、小沢健二は大人になって、難しいことを難しく歌えるだけの強さを手に入れたのだ。かつて花束をかきむしり、生きることを諦めてしまわぬようにと祈っていた青年とは思えないくらい、人間の営みを肯定することに迷いがない。
もちろん、小沢健二はいつだって音楽を通じてありとあらゆる生命や営みを肯定し祝福してきた人間だ。でも、あの頃の、抱えきれないほどのブルーと自らの覚めた視線に戸惑いながら必死に本当の扉を開けようとしていた、あの強さとは明らかに質感が異なる。

そんな強い大人になれたことは素直に「よかったね」と心から思えるし、自分もそんな大人にならないといけないと思う。だからこそ、今の小沢健二を全力で受け入れられないことに、僕は少し落ち込んでしまう。自分が大人になりきれていない未熟な人間であることに気付かされてしまう。
どんどんリアリズムに近づいていくスピッツにもどこか馴染めないし、平賀さち枝の「恋愛がうまくいかないって事あるのかなぁ」という発言に当惑したこともある。そんな自分を認識するたびに、自分は結局人のナイーヴさを食い物にしてるだけなんじゃないかと思うことすらある。
90年代初頭、スピッツ以上に閉じた世界への逃亡をしていたb-flowerが、2012年の復活時に『つまらない大人になってしまった』という楽曲をリリースしていた。そのことが正しいとはこれっぽっちも思わないし、そう考えると小沢健二スピッツは時の経過とともに正しく大人になったロールモデルみたいだと思う。でも僕は今でも、大人じゃないような子供じゃないようなそんなときを必死に生きる楽曲たちを愛してしまいます。 


それにしても、子供が産まれるというのはそんなに大きいことなのだろうか。歌詞にもジャケットにもMVにも子供が大々的に出てきて少し戸惑ってしまう。あの小沢健二がそこに照れを持たないっていうところにも。かつて曽我部恵一の曲にやたらハルコちゃんが出てきたのとはちょっとレベルが違う気がする。
今の小沢健二の中心には子供というものがあるはずで、もしかしたらそれこそが笑いかけてくる甘いニヒリズムを蹴散らす源になっているのかもしれない。そして、この僕の、子供が産まれるということへの疑問が解けた時、大人になって、『So Kakkoii 宇宙』の謎が解けるのかもしれない。
でも、今の小沢健二を受け止めきれるまで、「無限の海は広く深く でもそれほどの怖さはない」と心から思えるまで、まだ時間がかかりそうだ。いつか来るかもしれないその日まで、絡まりながら、花束をかきむしりながら、北風の中何度も何度も考えてみたいと思う。

夏を乗り切る5の方法


真夏のピークが去ったらしい。
とはいえ朝と昼間はまだまだ暑くて、外に出た瞬間何もかもやる気がなくなる。「モンモンモコモコの夏なんです」なんて言ってる場合じゃないし、ここまでカーッとこられるとこっちも負けるかって気にもならないですね。
そんなこと言っていたって、どうにかしてこの暑さを乗り越えないといけないし、でもやっぱり無力な僕たちなので、こんな時こそポップカルチャーの力を借りるしかないですね。ということで、夏に聴きたい・見たい・読みたい・食べたいものを適当に5つ選びました。このうんざりするほどの暑さを素晴らしい作品たちと一緒に乗り切りましょう!

 

サニーデイ・サービス『MUGEN』
大瀧詠一の『A LONG VACATION』、GOMES THE HITMANの『weekend』『down the river to the sea』、BOaTの『RORO』にザ・なつやすみバンド『PHANTASIA』...夏に聴きたいアルバムなんて山のようにあるのだけど、なんとなくサニーデイ・サービスの『MUGEN』をチョイスしてみた。
再結成後のサニーデイが『DANCE TO YOU』という傑作を生み出した今でも、自分にとって夏のサニーデイといえばやはり『MUGEN』なのだ。センチメンタリズムをくすぐる美しいメロディ、文学的な歌詞、優しい歌声と、サニーデイの魅力が必要十分に凝縮されている。しかし、このアルバムを特別な存在にしているのは、ザラザラとしたローファイな音質と、作品全体に通底する刹那主義だと思うのだ。
1曲目の「花が咲いては枯れ 枯れてはまた咲いて」という歌詞がこのアルバムのカラーを決定づけている。花は枯れ、波は寄せては返し、恋は終わる。そんな刹那主義を、ここまで綺麗に表現できる曽我部恵一という作家の素晴らしさ。
そして、このアルバムの代表曲「江ノ島」のパンチライン「いつもそう触れないよ 感じるだけ 夏の荒野」。確かにそこにあるのに、決して触ることのできない夢現、あるいは夢幻。そんな''MUGEN''を音にしたなら、きっとこんな風に、輪郭の曖昧なザラザラとした音なのだろう。
このアルバムは、甘美でアッパーなバラード、『夢見るようなくちびるに』で締めくくられると思いきや、直後に『東京』のオルゴールverが流れる。『東京』の冒頭の歌詞はこうだ、「赤い唇が色褪せる前に その熱い血潮の枯れぬ間に」。人知れず色づいたくちびるも、やがて色褪せるという、最後の最後まで徹底された刹那主義。何一つ触ることも手にすることもできず、やがて全てが消えていくという曖昧な実感。
それでも、このアルバムの、ガラス細工のように淡く繊細なデカダンスが、冷房の効いた夏の部屋にはとても心地よく思えてしまう。いつか終わる夏に思いを馳せながら、ずっと''MUGEN''に浸っていたいと思ってしまう。

 

おぎやはぎバナナマン『epoch TV square』
おぎやはぎバナナマンという盟友達による、シットコムの名作。夏が舞台の作品かと言われたら、そういうわけでもないのだけど、何故か無性に夏に見たくなる。この、友人数人と延々と無駄を貪るような、くだらなく愛おしい時間が、自分の中で''夏休み''というイメージと強く結びついているのだ。
というか、15歳の夏休みにひたすらこの作品を見てたという個人的な記憶が強いだけかもしれないけど。冷房がガンガンに効いた部屋で、することもなくこの作品のDVDをプレステ2で見ていた自分をずっと大事にしていきたい。これはそういう作品だと思うので。

バナナマン&おぎやはぎ epoch TV square Vol.1 [DVD]

バナナマン&おぎやはぎ epoch TV square Vol.1 [DVD]

 

 

伊集院光 深夜の馬鹿力『カブトムシの秘密』
月曜JUNK 伊集院光 深夜の馬鹿力で、2007年に夏休み特別企画として放送されていたコーナー。カブトムシの特徴を3択で出題するという体の、家庭不和や人生転落というトラウマネタのオンパレード。
しかし、2007年、まだ中学一年生で深夜ラジオを聴き始めたばかりの自分はこのコーナーに大きな衝撃を受けたのだった。社会や人生なんてものからはみ出した負のエネルギーが笑いに転化したときの熱量や、まるで文学作品のような言葉の連なりは、13歳がこっそり1人で深夜に聴くにはあまりに新鮮だったし刺激的だった。
未だに夏になると聴きたくなってしまって、聴いた瞬間、いつか見た悪い夢のようで、それでいて実家のような安心感のある、''向こう側''のジメジメした夏の夜にいとも簡単に引き戻されてしまう。

 

川上弘美『離さない』
夏になると、ひんやりするような作品が読みたくなるものですよね。自分の中で、最もひんやりする作品が、川上弘美の短編集「神様」に収録されている「離さない」です。
寓話的で不可思議ながら温かい作品が多く収録されている「神様」ですが、その中でひときわ異質で妖しい魅力を放ったこの作品の存在感は、今でも僕の記憶に住み着いて離れません。
「自宅で人魚を飼育する」という一見ロマンチックな設定からは想像できないような空恐ろしいプロットに、冷たく淡々とした文体。徐々に人魚に執着をしていく登場人物のリアルな切迫感。おどろおどろしい恐ろしさではなく、心の中をゆっくりと真水で満たしていくような静かな恐怖は、同時にどこか美しくもあって、夏にぴったりです。
20年以上も前の作品なのに、現代になってますます痛切さが増しているところにもこの作品の凄みを感じてしまう。

神様 (中公文庫)

神様 (中公文庫)

 

 

東銀座 萬福『冷やしそば (とりごま味)』
東銀座にある、老舗中華麺 萬福の夏季限定メニュー。オーソドックスな冷やし中華も美味しいのだけど、こちらのとりごま味の冷やしそばが絶品です。
下味のしっかりした柔らかい鶏肉と、風味豊かなごまだれの相性がとにかく抜群で、暑さにやられて減退した食欲でもスルスルと食べてしまう。価格は990円なのですが、麺がかなりボリュームあって、かなりの満足度の高さ。
レトロな店内も趣あってとともクールかつキュートで、是非一度足を運んで頂きたい名店です。

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どうか、夏を無事に乗り切れますように!