思うことはいつも

生活していて感じたことや触れたもの

2022年9月の記録

毎月ブログを書くという目標は恥ずかしいかな1年間も続かずじまいだったのだけど、今月は記録しておきたいことが結構あったのでひさびさに書きました(ところどころ8月後半のできごとも含む)。

漫画好きの友達と3人で、神楽坂のロイホでずっと「チェンソーマン」と平方イコルスンスペシャル」の話をしていた。「スペシャル」は今年の夏出会ってよかったもの第1位だ(2位はパルム安納芋味)。まだ読んでない人はこの先数行読み飛ばしてください。

もうシンプルに、こんなにも物語の展開に夢中にさせられたのって、覚えている限りここしばらくないかもしれない。それくらい最終巻は没頭してしまった。そして「スペシャル」は「ほのぼの日常物から急展開を見せてやろう」みたいないやらしさが一切ないのがすごいと思う。帯に書いてある通り「何かがおかしいことは最初からわかっていたはずだった」のだ。Amazonのレビューにある「これまで目を逸らして来たツケが回ってきたかのような、衝撃的で、目を背けたくなるような出来事が次々と起こります」という言葉がとても的確だなと思った。僕はこの作品を「一見平和に見える日常のすぐ裏側にはとんでもない悪意や歪みが渦巻いていて、それを見て見ぬふりしているうちに後戻りできないところまできてしまう」という、自分たち自身が生きるこの世界の話だと思って読んでいます。自民党統一教会の関係も気候変動も全部そう。そしてそれを「8年間かけた連載でスクールライフコメディからシリアスな展開へと舵を切る」という、作品の形式で語っているのがすさまじい。こんな作品は「スペシャル」以外この世に存在しないと思う。

「ブランクスペース」の最終巻はちょっとイマイチかなというのが正直なところ...。目に見えない物 / 忘れ去られていく物とフィクションとの関係性という主題は好きなのだけど、2巻あたりからずっと話の流れが歪で、それが最後まで続いた印象だった。荒唐無稽なバトルシーンとかにも乗れず...。
シマ・シンヤ「GLITCH」はまだ全貌がまったく読めないのだけど、見知らぬ町を舞台にしたSFジュブナイルものというだけでワクワクしています。

無性に詩を読みたくてなって、杉﨑恒夫「パン屋のパンセ」、西尾勝彦「歩きながらはじまること」、斉藤倫「ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集」、島楓果「すべてのものは優しさをもつ」、岡本真帆「水上バス浅草行き」を買った。俺も詩を書きたい。

「嫌なことから一目散に逃げるのがPYLの流儀」「もうこれ以上誰からも怒られたくありません」というステートメントから始まったperfect young ladyのバンド編成ワンマンは、今この瞬間に現場でしか目撃し得ないようなカルトポップが渦巻いていて最高でした。とても上質なポップミュージックをあくまでインディー的な感覚で鳴らす姿に、かつてのMAHOΩを想起したり。キッチュな雰囲気と楽曲や佇まいの端々から溢れ出る、人を食ったような舐めた態度がとにかく最高で、そういう姿勢は渋谷系的なものと近いなと思ったりもしたけれど、最終的にはキングオブコントのときのにゃんこスターアンゴラ村長みたいという結論に落ち着きました。

フィッシュマンズくるり、折坂悠太、カネコアヤノ出演のイベント「WIND PARADE」を秩父に観に行く。全組のパフォーマンスが素晴らしいのはもちろんのこと、最後のフィッシュマンズのライブパートで披露された全組総出での「ナイトクルージング」で普通に泣いてしまった。フィッシュマンズくるりに出会った学生時代からカネコアヤノや折坂悠太を聴いている今まで、自分の中の歴史の断片のようなものが思いがけぬ形で交差していて、生きててよかったなんてことを本気で思ってしまった。
カネコアヤノはドラマーが変わった影響もあってか、演奏の激しさに拍車がかかっていた。新曲はイントロから最後まで8分の6拍子(だったはず)。カネコアヤノはサビで急にハチロクになる曲が多いけど、全編通してなのは珍しい気がする。

Baes Ball Bearの小出祐介が、柴田聡子が手がけたRYUTist「ナイスポーズ」の歌詞の凄さを熱弁していると聞いて、聴きたさのあまり初めてラジコプレミアムに登録してしまった。それ以降「ナイスポーズ」をずっと聴いている。自分の中の2019年ベストトラックは「涙」だし、2020年ベストトラックは「ナイスポーズ」だ。「“今この瞬間”のひとつひとつがいつか思い出になってゆく(byさくらももこ)」ということに気づいた瞬間をここまでチアフルに切り取った曲がほかにあるのだろうか。「うとうとした肩を叩かれて振り返るまばたきの中」とメロディに対して詰まり気味に言葉を乗せた直後に、サビの「いっせいに飛ぶ綿毛 透明な空の手」でゆったりした譜割になるの、映像が急にスローモーションになった感じがあって聴くたび感動してしまう。

Laurd day romanceの新曲がとてもいい。シンプルなアレンジによって和声やメロの美しさが際立っていて、「Friends Again」の頃のシャムキャッツみたいだと思った。



「みんなのヴァカンス」「セイント・フランシス」「NOPE」「さかなのこ」「百花」「秘密の森の、その向こう」と、今月観た新作映画はどれもよかったのだけど「中途半端な感想を残すくらいなら沈黙してしまえ」とFilmarksに鑑賞記録を付けることすらやめてしまうという体たらく。Filmarksの点数の基準を明らかにミスっているのでリセットしたい。
しかし「みんなのヴァカンス」の夜の描写は出色だった。大袈裟でもなんでなく冒頭2分で「自分にとって特別な映画になる」と確信したし、その確信通りの作品だった。カラオケのシーンが印象的な海外映画を観ると、「カラオケこの国考えた」とかいうカシアス島田並みの“愛国心”が顔を覗かせてしまう。
「セイント・フランシス」はちょいちょい言われている気がするけど「わたしは最悪。」や「カモンカモン」に通じるものを感じさせる作品で、「わからない」ということを2時間かけて描いているのがよかった。性別も年齢も置かれている立場もまったく違うから安易に共感なんてできないけれど、いくつになってもみんな「わからない」まま生きていくんだと勇気付けられた。

1話分録画し損ねたせいで「初恋の悪魔」が完全に止まってしまい、全話終わったのに配信でも観ていないという駄目っぷり。流石にそろそろ観ようと思ってる。
友人から急に「大豆田とわ子を観て、坂元裕二のドラマにハマりそう」という旨のLINEが来たので「それでも、生きてゆく」と「最高の離婚」を全力で薦めてたら、自分も無性に観たくなってしまい、「最高の離婚」を全話観返した。もう5回くらい観ているはずだけど、段違いで面白すぎる。1つの明確な主題を豊かな会話劇にまとめ上げてしまう脚本も主演2人の演技もロケーションも群を抜いて素晴らしい。しかし、放送当時から濱崎光生に自己投影して観ていたのに、自分の中の濱崎光生性が年々薄れていることに気づいて寂しくなる。今の俺なら稲穂も喜んで振りそうだ。

8/27と9/18にお笑いライブ「グレイモヤ」を観に行った。8/27に観た友田オレのこのネタがとても面白かった。


阿曽山大噴火っぽい言い回しやネタの展開”なんてものが自分の中に知識として蓄積されていることに驚かされる。
あとケビンスは今すぐにでも売れそうな華とネタから滲み出る関係性の美しさみたいなものがあってすごい。
しかし「グレイモヤ」を観て以来、拍手笑いという現象についてずっと考えている。

前日に知って飛び入りでユーロライブに観に行った「夢の島志念公演」がとてもよかった。街裏ぴんく、小松海佑、永田敬介という2022年現在の漫談家三傑による2本ずつの漫談ライブだ。思春期ならではの自意識を見事に具現化した小松海佑の2本目「文化祭」もめちゃくちゃ面白かったのだけど、”手紙”をモチーフにした永田敬介の2本目が特に素晴らしかった。ファンレターについての話から始まり、脱線しつつ細部を笑いで埋めながら、いつの間にやらもう1枚の“手紙”の話へとつながっていく。ルサンチマンをまき散らすようなアウトローな語り口に反して、その筆致の鮮やかさはまるで向田邦子のエッセイのようだなと、ひとりで感動してしまった。

決勝をまっさらな気持ちで観たいという思いもありつつ、キングオブコントの準決勝の配信をギリギリに徹夜して2日分観てしまった。2日間ともロングコートダディが一番好きだった。1日目のネタみたいな会話を永遠に聴いていたい。
母親から「キングオブコントの決勝、2組も知らなかった」と連絡が来た。2組以外知ってるんかいと思ったし、その2組にや団が含まれてなくて、や団知ってるんかいと思った。絶対にダウ90000のこと好きだと思ってずっと薦めていたら、「深夜1時の内風呂で」の放送翌日にえらく興奮してる様子のLINEが届いた。それだけで、ものすごく意味のある放送だったんだなと感じる。

今月もっとも好きなあるあるは「市民会館で飽きたときに目に入る、時計と禁煙の文字と非常口マーク」でした。

中田敦彦「『曼陀羅東京』プロジェクト中止報告」の“面白さ”

「奇奇怪怪明解事典」でTaiTanが「上半期に観た動画で一番面白い」と薦めていた、中田敦彦の「曼陀羅東京」プロジェクト中止報告が、本当に今まで出会ったことのないような面白さで脳を揺さぶられてしまった。まだ観てない人は、このブログを読む手を止めて今すぐ観ることをオススメします。



25分間、最初から最後まで「ずっと何言ってんの?」の連続である。「実は中田って、聴いてたようで観てたらしいんだよ」「俺のトークの中の中田含有量」「中田が中田を商品にしたときに初めて中田は中田を売ることができる」「結局、中田目当てなんだよな」「次マンガ作るんだったら『中田』だな。楽曲も『中田』」「中田が合法ってのがおかしいんだろうな」など、中田の中田による中田のためのパンチラインのオンパレードだ。“中田”という概念を脱臼させつつ繰り広げられるセルフブースト。それが持ち前のペテン師じみた話術で25分にわたって繰り広げられたすえに「曼陀羅東京、中止です」と締めくくられる。なんなんだこれは。しかし「ずっと何言ってんの?」と思いながらも、腹を抱えて笑いながらまんまと25分間観続けてしまった。まんまと、である。

この動画の面白さの肝は、どこまでが“ボケ”でどこからが“マジ”なのかが絶妙にわからないところにあると思う。後半になるにしたがって「いやいや流石にこれはボケてるだけでしょう」と思うわけだけど(実際あっちゃんも自分で笑いそうになっている)、心の隅で「いや、やっぱり本気で言っているのか...?」と思わせてしまうような絶妙さがある。もちろんあっちゃんはプロの芸人であり“計算づくの戦略家”であるからして、当然“面白いこと”として言っているに決まってるのだけど、一筋縄にまるっきりそうとも思えないような何かがある。例えばまったく同じことをアルコ&ピースの平子っちが言ってれば、完全に“そういうボケ”として全員が受け止めると思うのだけれど、ここで話してるのは“YouTubeでの「講義」とオンラインサロンで富を得て、ときに堀江貴文やDaiGoと並列に語られるお笑い芸人”なのだ。その証拠に、コメント欄やTwitterを見る限り、「奇奇怪怪明解事典」で取り上げられる以前に、この動画が“面白い動画”として受容されてる形跡はほとんどない。YouTubeのコメント欄がそういう場であるというのを差し引いても、動画の内容を茶化したコメントはあまりに少なく、“マジ”なものとして受け取っているのが9割以上だ。

同じく「奇奇怪怪明解事典」で、条件反射的に笑ってしまうような面白い動画を競う「脊髄反射王」という企画が行われていた(暫定チャンピオンは、かの有名な城島リーダーによる「あややとぅーやー」)。そこで何度か言われていた「ツッコミが入らない場で行われてるからこそ面白い」という概念。それがこの「曼陀羅東京」中止報告動画では、動画内のみならず、コメント欄をはじめとする、この動画を取り巻く環境すべてにまで拡張されているのではないか。当事者レベルのツッコミはもとより、メタレベルのツッコミすら不在な状態。例えば初期「相席食堂」のロケVTRを、千鳥のワイプなしで“普通のロケ番組”として流していたら、これに近い面白さになるのかもしれない。

なので、その面白さが広まるにつれて、もしかしたらこの動画の魔法は解けてしまうかもしれない。こうしてブログを書くことで、その一端を担ってしまったらごめんなさい。でも、あんなに間を溜めた「まったく違法じゃないし...体に、悪く、ない」なんて面白すぎるものを目の当たりにして、口をつぐんでいられるわけがないだろう。

しかしTaiTanはどうやってこの動画に辿り着いたのだろうか。素晴らしいものに出会わせてくれてありがとうございます。そして「脳盗」レギュラー化おめでとうございます。

2022年3月の記録

年度末の仕事の多さに忙殺されて、半日稼働とかも含めると18連勤していた。ゆえに書くことがあまりない。
そして国内外問わずいいアルバムが山ほど出ていて、全然追いきれていない。

優河の「言葉のない夜に」は”音響フォーク”なんて呼ばれるものの国内作品の最高傑作なのでは?と思っている。全曲のミックスを手がけた岡田拓郎(ex. 森は生きている)、そして岡田、千葉広樹、神谷洵平、谷口雄からなる魔法バンドによるサウンドメイクの素晴らしさ。それが、優河というシンガーの存在が中心にあることで、とても開けた作品になっていることが、この作品を特別なものにしていると思う。

Laura day romance「roman candles | 憧憬蝋燭」は、前作「Farewell Your Town」が本当に大好きだったものの、その後のシングルが真っ直ぐなギターロック路線だったのでどうなるかと思いきや、まさかのインディーフォークどっぷりのアルバムになるとは(このインタビュー曰くClairoが大きな参照になっているよう https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/31328)。作品ごとのニュアンスの変化のさせ方も、バンドにとって勝負所と思われるこのタイミングでキャッチーな曲が1曲もないのも、とても頼もしいなと思ってしまう。そしてなにより、シンプルにソングライティングがとてもいいですし。

国外のアルバムはもうとにかくRex Orange Countyの「WHO CARES?」が最高。ヒップホップやネオソウルといった世界的なトレンドを真っ向から吸収しつつ、あくまでリビングルームに似合う、ささやかでタイムレスなポップミュージックに仕上がっている。Homecomings福富さんが寄稿したこちらの文もとてもよい。僕らはいつだって暮らしに近い音楽を愛している。(ホムカミの新曲のタイトルは「i care」!)

レックス・オレンジ・カウンティ(Rex Orange County)の音楽は僕を安心させてくれる――Homecomings福富が新作『WHO CARES?』について綴る | Mikiki

そういえばfuvkの「split death」もとてもよかったのだけど、fuvkもいつだか福富さんが紹介しているのを見て知ったし、Laura day romanceの今作にも福富さんがコメントを寄せていた。自分の感性は思ったよりも福富さんを軸に動いているのかもしれない。

そういえばこの前福富さんの愛読書だというスチュアート・ダイベックの「シカゴ育ち」を読んでいたら、1章のタイトルが「Farwell」で、Laura day romanceの「Farewell Your Town」はここから着想を得たのではと思ったのですが、どうなんでしょう。「Farewell Your Town」の街の描き方はめちゃくちゃシャムキャッツ的であり、めちゃくちゃホムカミ的なので、前作に元シャムキャッツ菅原さん、今作に福富さんがコメントを寄せるているのは、バトンが直接手渡されたようで、胸が躍る案件であります。

Yogee New Wavesの日比谷野音公演が本当に素晴らしくって、野音にしかないあの“特別な感じ”が間違いなく日本一似合うバンドでした。
Yogee New Wavesというバンドは、シャムキャッツやザ・なつやすみバンドや片想いやWORLD RECORDSの頃のcero(もちろんMy Lost City以降も最高だけど)を愛してやまなかった自分にとって、SuchmosやネバヤンやLUCKY TAPESやD.A.N.と同じく、10年代中盤の東京のインディーシーンの潮目の変化を象徴する存在で、どこか受け入れきれない感覚がずっとあった。それが昨年の「WINDORGAN」あたりからようやくそういったバイアスなしに聴くことができて、今回野音に行ったわけだけど、やっぱり掛け値なしに最高のライブをするバンドですね。ブラックミュージックを通過しつつ、最終的にどこまでも上質なロックンロールをやろうとしてる感じがめちゃくちゃよくて、そういう“バンドならではのマジック”みたいなものが、あのステージに最高に映えていた。ライブで聴くとカントリーやレゲエやフォークといったルーツミュージックの要素も強く出ていて、洗練されきっていないところがとても好きだ。生涯ベスト野音はもうこの公演で決定です。

カネコアヤノのツアーファイナルはいつも通りとてもよかったのだけど、新曲のライブアレンジがめちゃくちゃシューゲで、あまりそっちの方向に行きすぎないでほしいと思っている。
サニーデイ・サービス豊洲ワンマンもめちゃくちゃよくて、それ以来曽我部恵一ワークスをおさらいしている。「PARTY LOVE ALBUM」の「MAHO」がとても大好き。

去年すっかり見逃した「14歳の栞」の再上映を池袋シネマ・ロサで観れてよかった。
今泉力哉の「猫は逃げた」は想像以上に軽くて拍子抜けする部分もあったのだけど、シンプルに何度も声を出して笑ったし、劇場全体もずっと笑いが起きていて、それだけでもうよかったな。特に山場の長回しのシーンの笑いの数が尋常じゃなくて、結局自分はこういう会話劇然としたものに弱いんだなと思いました。

3月でもっとも好きなあるあるは「焼き鳥の聞いたことがない名前の部位、コリコリした食感を想像しがち」でした。

2022年2月の記録

2022年のベストバラエティが決定しました。チャンスの時間の「未解決事件検証!TKO木本はタイムリープしてた!?」です。時代の流れとともにバラエティ番組の放送枠がどんどん縮小するなかで、1時間全体の流れでここまで面白いものを見せてもらえることに痛く興奮してしまいました。エピソードトーク単体で十分面白いのに、そこにタイムリープというこじつけが加わることでこんなにも面白くなるなんて。後半の本人登場パートはチャンスの時間が十八番にしてきたイヤモニ指示系企画の到達地点なのではないでしょうか。「タイムリープしたなってきた」という身も蓋もないセリフの面白さよ。今年もバラエティは千鳥の1年になりそうです。

いろんな人が絶賛しているのを見て「マユリカのうなげろりん!!」を少しずつ聴いている。いわゆる深夜ラジオ的なグルーヴ感みたいなものはなく、なんてことないトークが毎回30分続くのだけど、その温度感がとても心地よくてずっと聞いていられる。阪本さんの、中谷さんを突き放すあの拗ねたような口調、とても大好きだ。
マヂカルラブリーANN0の機種変の話が“なさばな”の理想のようなトークで最高でした。

いくつもの漫談を数珠繋ぎにして1時間45分の作品にした、街裏ぴんく独演会「戻れ、みんな待ってる」は圧巻。まったく異なるものたちが確かに同じ世界で共存していて、とても異常なことのように思えるのだけど、でもそれって私たちがいるこの世界そのものではないか。

あたしンち」の共作者(けらえいこの夫)でもある上田信治の「成分表」がとっても面白い。「同じ景色を見ていても、この人の目にはまったく違うふうに映っているのだな」と思える瞬間にたまらなくときめいてしまうのだけど、この本には最初から最後までそんなときめきを感じてしまった。ある事象や概念を最小限まで解体していって見えてくる驚きや、それをまた別の事柄と軽やかに結びつけてしまう感動に満ちている。「受容器」という章の結びの「先日は家にいて、欠伸をこらえるとき顔の皮膚が後ろにひっぱられる感じについて、考えていた。自分はたとえば、世界のそのあたりを受け持つ受容器になれればと思う」という文章がこの本の魅力を端的に表していると思う。中でも「背景」と「所ジョージ」が特に好きでした。

当たり前のように映画を配信で観れるようになって、“映画館で映画を観る”ということの価値が自分の中で相対的に高まっているような気がする。というのを「ウエスト・サイド・ストーリー」を観て改めて実感した。あの映像と音楽の快楽性は自宅のテレビじゃ100分の1も伝わらないと思う。
「ウエスト・サイド・ストーリー」を観るにあたってスピルバーグ作品をいくつか見返したのだけど、「未知との遭遇」とか「激突!」とか、文字に起こしたらたった数行に収まってしまうのに、なんであんなに面白いのでしょう。でも結局は「ジュラシック・パーク」が一番好きかもしれない。子供の頃、千葉県は野田市にあるドライブインシアターで「ジュラシック・パークIII」を観たので、その記憶と密接に結びついている。調べると、野田市ドライブインシアターは昨年14年ぶりに復活したらしいです。びっくり。

「コーダ あいのうた」は脚本がかなり粗いのだけど、“乗り物”にまつわる映画的な運動が120分の物語の中で貫かれているのがとてもよかった。主人公と父親が、トラックの荷台に腰をかけながら心を交わすシーン、とても感動的だ。

「ちょっと思い出しただけ」は正直あまり好きではなかったのだけど、あんなふうに過去の出来事が今でもどこかで生き続けているというのは本当に素敵なことだと思う。だからチャットモンチーというバンドに特別な思い入れはなくても「CAT WALK」は本当に大好きだし、つい先日ストリーミングが解禁された川本真琴では「ドーナッツのリング」を一番愛しています。

ときに自分は「ナイト・オン・ザ・プラネット」と聞くとジム・ジャームッシュより先にHi,how are you? の「NIGHT ON THE PLANET」を思い出す人間なので、映画を見た日の帰り道にずっと聴いていた。

この頃のハイハワの曲はどれも無性にさびしくて大好きだ。当時のプロフィール「借りパクした漫画や延滞した映画、おわっちゃった夏のハーゲンダッツやイーニドがバスから見た景色をうたいます」の素晴らしさよ。

音楽はBig Thiefのアルバムをもうずーっと聴いていて、もはやそれ以外何も聴いていない。もう今年のベストもこちらで決まりです。

ラッキーオールドサン×Laura day romance×UlulUのスリーマンをFEVERに観に行くも、UlulUが出演キャンセルに。正直UlulUが一番観たかったので残念だったのだけど、ひさびさに観たラッキーオールドサンがとてもよかった。テクノロジーに飼い慣らされたせいでCDを聴くのがすっかり億劫で、最新アルバムの「うすらい」を全然聴けていなかったのだけど、こんなにも素晴らしいアルバムなのですね。ラッキーオールドサンはいつだって帰る場所を持たない根無草で、つまりもっとも“Like a Rolling Stoneの精神”を宿した2人組なのだ。アルバムを完全自主販売でリリースし(NEWFOLKの手からも離れ)、47都道府県を巡回しているのがその何よりの証拠だ。2015年頃のインタビューでシャムキャッツの夏目くんが「自分たち以外に国内の音楽でリアルだと感じらられるのはラッキーオールドサンぐらい」というようなことを言っていて、それがとてもうれしかったことを覚えている。だって本当にそうだったし、今もそうだから。

免許を取ったら君をのせて雲の向こうへ
道の駅で降りて
故郷の海がはるかになって夏は過ぎた
ひとりぼっちがふたり
あるいは誰ひとりいないのだ
(鴇色の市)

あらゆるものから解き放たれて、自分が何者でもなくなったかのような感覚になるあの瞬間。そんな一瞬のために自分はポップミュージックを聴いているような気がする。

2月でもっとも好きなあるあるは「冷たい手で目やにを取るときに振り絞る少しの勇気」でした。

2022年1月の記録

濱口竜介の「偶然と想像」を3回も観てしまった。なんで年内に観なかったんだろう。もう、とにもかくにも脚本のすごさに打ちのめされてしまった。例えば1話冒頭のたわいもない恋バナだけでも永遠に聞いてらるような面白さがあるし、その後の古川琴音と中島歩のやりとりはゾクゾクするほど魅力的。それでいて、2話と3話のようなとんでもないうねりを持ったプロットまで用意されているのだから、もうお手上げだ。
しかし、それだけではないこの映画の何かが自分のことを惹きつけていて、その正体がなんなのか1回目ではわからなかったのだけど、「PASSION」と「偶然と想像」を立て続けに観てなんとなくわかった気がした。自分は、徹底して“言葉”が負け続ける「PASSION」という映画が本当に許せなかったんだな。教室での真摯な訴えも、ゲームの力を借りて無理やり暴きあった本心も、ひたむきな愛の告白も、すべてちゃぶ台を返したかのように無に帰してしまうあの映画のことが。「PASSION」を観たあとに「偶然と想像」を観たら、濱口竜介の“言葉”というものへの態度の変化がとても浮き彫りに表れているように思えた。「偶然と想像」には、“言葉”というものに、もう少し限定的な言い方をするならば“対話”というものに、希望を託すような態度をどうしたって感じてしまう(それは「ドライブ・マイ・カー」だってそうなのだけど)。エチュードのような架空の対話を通してゆっくりと心がほどかれる3話がとりわけ素晴らしく、今の濱口竜介にとっての“映画”ってこういうことなんじゃないかと思った。

あとは「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」「ユンヒへ」「春原さんのうた」「フレンチ・ディスパッチ」などを観た。去年シアター・イメージフォーラムで見逃したケリー・ライカートの「リバー・オブ・グラス」を早稲田松竹で観れたのがうれしい。

今期のドラマも1話をいくつか観たのだけど、「偶然と想像」のせいで不感症になっているのか、持続的に観れそうなものが見当たらなかった。主演2人に惹かれて観た「恋せぬふたり」とか、テーマのためのセリフしかなくてびっくりしてしまった。
あとは山田尚子×吉田玲子×高野文子という座組みに惹かれてアニメ「平家物語」を観ている。

今年の笑い初めフットンダで観たジェラードン(海野さん不在)の「赤ちゃんショー」でした。「この時間に生放送でこのネタを見ているという事実が面白い」という感覚を久々に味わった気がする。
座王」の正月スペシャルはメンチ対決がとにかく最高だった。

「ダイヤモンドno寄席」「マヂカルラブリーno寄席」「粗品に買ったら10万円」など話題の配信をいくつか観た。でも一番は、やっぱり座・高円寺2で観た「サラリーマン川西の冬のボーナス50万円争奪ライブ」。前回に引き続き圧倒的な熱量で、誇張抜きで本当に全組面白い。ハゲネタなしでも綺麗な構成&脇田さんのキャラクターで爆笑をかっさらうシシガシラに、完全に脂が乗りきってるパンプキンポテトフライ。久々に観た街裏ぴんく「床穴」の迫力は完全に50万を取りに来た人のそれで、圧倒されてしまった。しかしなんと言っても、圧巻だったのは優勝したダウ90000のコント「バーカウンター」。そのタイトルは何度か耳にしていたのだけど、噂に違わぬハイクオリティなコントでした。日常のあるある的な切り口から、あれよあれよとワクワクする展開を見せてくれる。8人ならではのビジュアル的な面白さもあり、“会話劇”というダウ90000のパブリックイメージを覆すような“コント”としての求心力に満ち溢れていた。本公演にあれだけ魅了されながらも、短尺のコントについては帯に短し〜感を感じて、「あの子の自転車」をことごとくスルーしていたこと、深く恥じます。

ダウ90000第3回本公演「ずっと正月」ももちろん素晴らしかった。舞台設定とセットの構造が見事で、知り合うはずのなかった人たちが、1つの場所でガラスを隔たりしながら交わり合う様に胸を打たれてしまう。終わってからずっと、ホフディランの「恋はいつも幻のように」を聴いていた。すべてのぼんくら男子どもの恋は、いつだってホフディラン「恋はいつも幻のように」とピーズ「好きなコはできた」とともにあるのだ。


帰りに新宿の人気店でスパイスカレーを食べたら、あまりのスパイス感のなさに自分の舌が消えたかと思った。

なんとなく、本当になんとなく急に観たくなり、2008年にBSジャパン・テレ東で放送されていた番組「とにかく金がないTV」のDVDを買う。面白い。切り口と、地道なリサーチで面白い事象をつぎつぎ炙り出していく番組運び、ナレーションに込められた“悪意”など、なんとなくこのテイストは水曜日のダウンタウンに受け継がれているのではと思った。

オークラ氏の自伝「自意識とコメディの日々」はそれなりに楽しく読んだ。

囲碁将棋の情熱スリーポイント」の「イオンモールに入っている内科は幼稚」という話がたまらなく面白い。同じ景色を見ていても、2人の脳にはまったく違うように届いているのだなあ。#63の12:30から聴けるのでおすすめです。

Netflixで配信されている「アジズ・アンサリのナイトクラブのコメディアン」は必見です。

cero「WORLD RECORD」「My Lost City」と、ayU tokiO「新たなる解」という思い入れのあるアルバムのアナログ盤を入手できてとてもうれしい。どれだけ音楽的な進化を遂げても、僕は「あののか」が一番好きなのだ。

ひとりで過ごす昼間は 静かな顔で暮らしてる
不安なくらい自由さ ぼくら
立ち止まって呼吸をすれば どこまでも
のぼっていってしまいそうね
はたと気づく

郊外で暮らす無数の人が感じているであろう言葉になるはずのない感覚が、言葉として、音として、声として完璧に形になっていて、初めて聴いたときに本当に感動してしまった。

「新たなる解」は1曲目の「恋する団地(2016 ver)」がとにかく素晴らしいのだ。再生した瞬間流れる、ブライアン・ウィルソンも真っ青の美しすぎるコーラスワークに、豪華絢爛なホーン。躍動的なリズムとメロディに、ほんのりファンキーなギターが添えられる。こういう曲と出会うためにポップミュージックを聴いているのだと思わせられる。そしてayU tokiOは天才的なコンポーザーであると同時に、とても優秀な抒情詩人なのであると、「犬にしても」の「咲いてばかりでない 枯れてばかりでない」という言葉を聴くたび思い出す。

カネコアヤノとbetcover!!のツーマンをWWW Xに観に行ったら整理番号11番でまさかの最前列センターマイクど真ん前。とんでもない至近距離でカネコアヤノを観るのは言うまでもなく良い体験だったのだけど、それ以上にbetcover!!のライブに圧倒されてしまった。各曲ごとをシームレスにつないだアンコールなしの構成も、最高にストイックで痺れました。

kiss the gambler×ayU tokiO×屋敷のスリーマンを、晴れたら空に豆まいてで観る。昨年出したアルバム「黙想」を聴いて以来妙に気になる存在だったkiss the gamblerを生で見れて嬉しい。アルバムに収録されている「Fresh」「サマーサンライズ」「コンクリの家と砂の家」は才気が迸っているのだけど、同時に普遍性なんてものも宿っていて、近い将来NHKとかCMで彼女の曲が流れていても何ら不思議じゃない。
BASEMENTBARで観たシャンモニカのライブはギターがとにかくいい。そういえば「トゲトゲぽっぷ」の収録曲が、水ダウでひっそり使われていた。

宇多田ヒカル「BADモード」を聴いて、人生で初めて0.000001%だけ「子供がほしい」という気持ちが芽生えた。元昆虫キッズ・高橋翔のソロ曲はとんでもなくグッときますね。

東京駅近くのインデアンカレーでお昼を食べていたら、Homecomingsの新曲が流れてきた。こんなふうに生活の中で不意に出会うのにぴったりの音楽だ。福富さんの愛読書だというスチュアート・ダイベック「シカゴ育ち」を読んで、知らない街の知らない景色ってなんでこんなに素晴らしいんだろうと改めて思った。

1月でもっとも好きなあるあるは「持ち手を立たせたときにだけ、箱から覗くケーキの苺」でした。

2021年 私的ポップカルチャー BEST30

今年の6月に、月に1回ブログを更新すると決めて、ときに謎の義務感にかられながらもなんとか半年続けることができました。せっかくなので、今年観た・聴いた・読んだポップカルチャーのすべてを無理やりベスト30にしてみたいと思います(本当は自分の中だけの遊びとしてやるつもりだったけど、いざ作ってみたら公開したい欲求にかられてしまった)。
オールジャンルのポップカルチャー年間ベストは下記の方々のエントリーを観てやりたいと思ったものなので、参考文献的に貼らせていただきます。

各作品についての説明やコメントは脚注に回しております。どうぞ!

 

30. 熊倉献「ブランクスペース」*1



29. ななまがり「けんちゃん」*2




28. チャンスの時間「ノブの好感度を下げておこう」*3



27. Perfect Young Lady「Perfect Young Lady」*4




26. xiexie*5




25. マヂカルラブリーno寄席*6




24. テレビ千鳥「1周だけバイキング」*7




23. 「今ここにある危機と僕の好感度について」*8



22. 首藤凛「ひらいて」*9




21. ダウ90000 第二回本公演「旅館じゃないんだからさ」*10

f:id:kashiwajun:20220101125112j:plain


20. 柴田聡子「雑感」*11




19. Faye Webster「I Know I'm Funny haha」*12



18. 「うきわ ー友達以上、不倫未満ー」*13



17. 「家主と台風クラブ ふたたび」@WWW X*14




16. 藤岡拓太郎「大丈夫マン」*15


15. 岸政彦「東京の生活史」*16



14. 平尾隆之「映画大好きポンポさん」*17




13. マヂカルラブリーオールナイトニッポン0*18



12. エメラルド・フェネル「プロミシング・ヤングウーマン」*19



11. 「セックス・エデュケーション」シーズン3*20




10. Bruno Pernadas「Private Reasons」*21


9. キングオブコント2021*22




8. 「ホークアイ*23




7. ガシェット「エッセイストのサイン会」*24



6. 囲碁将棋単独ライブ「WITH AMAZING VIEWS 2021」*25




5. 「お耳に合いましたら。」*26



4. Homecomings「Moving Days」*27




3. 囲碁将棋の情熱スリーポイント*28

f:id:kashiwajun:20220101132521j:plain



2. 爆笑問題カーボーイ 2021年11月23日放送回*29

f:id:kashiwajun:20220101132841j:plain


1. 「カネコアヤノ 日本武道館 ワンマンショー 2021」*30

f:id:kashiwajun:20220101133419j:image

 

手軽にいろんなジャンルのカルチャーに触れられることで、どんどん浅く広い、何にも詳しくない人になっているようなジレンマがあるのだけど、それでもこうしてベスト30を並べてみるとそこそこ満足のいく並びになったような気もします。これを更新している1月1日19:00時点の2022年の1位は、フットンダでのジェラードンの「赤ちゃんショー」なので、今年はそれを上回るものと30個以上出会えることを願っています。ありがとうございました!

▼そのほか次点(一部2021年が初出じゃないものあり)
Hi, how are you?「High School, how are you?」 / And Summer Club「Dreaming Galaxy」 / ミツメ「VI」 / EMERALD FOUR「天国から離れて」 / シャンモニカ「トゲトゲしっぽ」 / グソクムズ「すべからく通り雨」 / 冬にわかれて「もうすぐ雨は」 / 折坂悠太「心理」 / Boyish「We're all gonna die, but hbre's my contribution」 / 太田貴子「Voice of Angel」 / わがつま「第一集」 /  Clairo「Sling」 / Snail Mail「Valentine」  / 大和南那「夜明け前」 / オリヴィア・ロドリゴ「SOUR」 / 我是機関少女「25」/ temp.「HIBISCUS」  / 「ワンダビジョン」 / 今泉力哉「街の上で」 / ケリー・ライカート「ミークス・カットオフ」 / 濱口竜介「ドライブ・マイ・カー」 / 「オッドタクシー」 / 「大豆田とわ子と三人の元夫」 / 「コントが始まる」 / 真造圭伍「ひらやすみ」 / はなつまみ 志らくゲスト回  / FNSラフ&ミュージック / 街裏ぴんく独演会「hardliquor」/ ロングコートダディ「万引き」「待ち合わせ」 / 錦鯉「合コン」 / マユリカ「ドライブデート」 / カベポスター「少年探偵」 / かもめんたる「円盤」/ ニゲルベ「英語」 / からあげ4

*1:熊倉献の連載作品。新作漫画はあまり読めていないのであれなのだけど、数少ない中から本作をランクインさせました。「春と盆暗」から一貫して想像力について語る作者の作家性が“SFガール・ミーツ・ガール”という形で爆発している。この先の展開がまだまだ読めないのでこの順位で。

*2:常にコントという枠組みの可能性に挑戦し続けているななまがりの、新たな代表作。これがキングオブコント準々決勝で落ちたなんて信じられない。

*3:ABEMAのバラエティ番組「チャンスの時間」の押しも押されぬ(?)名物企画「ノブの好感度を下げておこう」。結局今年もテレビのバラエティは千鳥の1年だったと思う。特に「チャンスの時間」は、軸となる企画とチャレンジングな企画のバランスの理想を見つけたのか、安定感すらあった。その中でも「ノブの好感度を下げておこう」は、カーテン閉めからのキス顔やロレックスを貸したがる宮迫、ペットボトルバイブなどさまざまな名場面を見せてくれました。

*4:正体不明の宅録アーティスト・Perfect Young Ladyによる初単独音源となるカセット作品。80'sポップスを鮮やかに再構築した楽曲が大好物なのはもちろん、“レトロフューチャーの申し子”を自称する彼女の作品がayU tokiO主宰のレーベル・COMPLEXからリリースされることの重要性含めこの順位。

*5:今年2月にミニアルバム「XIEXIE」で音源デビューを飾った4人組ロックバンド。今年出会ったバンドで一番好きだった。YONLAPAやEVERFOR、DSPSといったアジア圏のインディバンドの潮流にもあるような、サイケ / ドリームポップの空気感を漂わせる低体温のインディロック。

*6:1月1日に行われ、大きな反響を呼んだ配信ライブ。お笑い界の地殻変動は思えばここから始まった。そう思うことがこの先きっと何度もあるはず。

*7:テレビ千鳥の1時間SP放送回。ただ人生ゲームをやる、ただ目玉焼きを作る、そしてただバイキングをする、それが一番面白い。この1年、隙さえあれば大吉先生のバイキングを観ていた。

*8:渡辺あや脚本によるNHKドラマ。後半少し失速した感じもあったけど、1話の初速だけでも十分。今描くべきことを、エンタメ作品としてのドライブ感を保ちつつコメディタッチで描いてしまうことの素晴らしさ。

*9:綿矢りさによる小説を原作とした、山田杏奈主演の映画。自分は「すべての表現には、この世に存在しない(と思われるような)オルタナティブな関係を描いてほしい」と思っているんだと気づかせてくれた作品。

*10:今年一躍お笑い好きの注目の的になったダウ90000による単独公演。演劇とコントの見事なハイブリッドに、20台中盤の男女が織りなす会話劇の瑞々しさ。ユーロライブのあのキャパで公演を観れたことが懐かしくなる日もそう遠くないはず。

*11:不世出の詩人・柴田聡子による“雑感”。

*12:アトランタを拠点に活動する女性SSWの4thアルバム。オリヴィア・ロドリゴ、Snail Mail、Julian Bakerなど今年は女性SSWが強かった印象だけど、自分の好みとしては断然Faye Websterだった。自分はどこまで行ってもフォーク寄りの人間なんだと再認識した1枚。同じくインディフォークの傑作だったClairo「Sling」よりこちらに軍配が上がったのは、ポップかどうか。

*13:テレビ東京で放送されていた、門脇麦森山直太朗主演のドラマ。役者陣、演出、脚本、映像などすべてがさりげなくもハイクオリティで一気に観てしまった。最終話の、横並びになりながら向かい合うカラオケボックスのシーンの素晴らしさだけでも観てほしい。

*14:何回かの延期を越えて行われた待望のツーマンライブ。家主と台風クラブこそが今一番最高のロックバンドで、NEWFLOKこそが今一番最高のレーベル。動画は、各バンドで好きなライブ映像を。

*15:希代のギャグ漫画家・藤岡拓太郎の1ページ漫画集。詳細は埋め込んだエントリーで。

*16:東京に生きる150人の人生を1216ページにわたって収めたインタビュー集。ありきたりな言葉だけど、この世界に生きている人の数だけドラマがある。そんなことを感じられる表現はいつだって大好きで、これはその究極の形。

*17:杉谷庄吾による漫画を原作としたアニメ映画。自分の大好きな主題が、アニメーション映画ならではの快楽の中に詰まっていた。

*18:今年4月にスタートしたレギュラーラジオ。放送開始からまだ1年経ってないとは思えないくらい、とにかく安定してずっと面白い。特にゴールドラッシュやQBハウス、すた丼などについての生活感滲むトークが大好きで、このラジオを聴いて久々にゴールドラッシュを食べに行った。

*19:エメラルド・フェネル監督による映画。当事者としてのとんでもない居心地の悪さと、映画としてすさまじいほどの“面白さ”の間で引き裂かれそうになるという初めての体験。

*20:Netflixの人気ドラマ「セックス・エデュケーション」の最新シーズン。過去イチで好きだったかもしれない。自分は「すべての表現にはオルタナティブな関係を描いてほしい」と思っているんだと気づかせてくれた作品その2。メイヴとエイミーの関係を愛している。

*21:ポルトガルの鬼才・Bruno Pernadasによる5年ぶりの新作。軽やかに国境を越えながら、さまざまなジャンルの音楽をウェルメイドなポップスにしてしまう、ポップミュージックの理想郷のような作品。自分の中で折坂悠太のアルバムと共振する部分もあり。ジャケットも最高。

*22:“コントの賞レース”としての在り方が大きく変わった記念的な大会。

*23:Disney+で配信されている、MCUの実写版ドラマシリーズ第4弾。供給過多気味で少しMCU疲れを起こしていたのだけど、「ホークアイ」は最高だった。「ダイ・ハード」ばりのクリスマスアクションのスタンダード。ジャッキー・チェンのような肉弾戦からのカーアクションの流れの楽しさは、これこそドラマで観たいやつだ!とうれしくなった。テレビサイズで楽しめる軽快さがありながら、血縁をめぐる物語でもある。

*24:袖で観ていて立ち直れなくなりそうなくらい打ちのめされた。

*25:90分間ひたすら漫才をし続けた単独ライブ。今年は囲碁将棋にとって飛躍の年でもあったわけだけど、この単独で「やっぱり日本一の漫才師だ」と再認識させられた。ネタの着眼点も言い回しも出てくる固有名詞も、すべて“囲碁将棋的”としか形容できない固有性に満ち満ちている。動画内で、単独で一番好きだったネタの一部が見れます。

*26:テレビ東京で放送されていたドラマ。完全に週に1回の癒しになっていた。「好き」という気持ちを屈託なく、しかし軽やかに放ち続けたこの作品は、自分の1つの指針にもなっている。

*27:Homecomingsの記念すべきメジャー1stアルバムにして現時点での最高傑作。「やさしいだけでうれしかったよ」、それがすべて。「Homecoming with me?」「Somehow,Somewhere」「SALE OF BROKEN DREAMS」が無邪気なモラトリアムの時代で「WHALE LIVING」が青春期の終わりなら、「Moving Days」は表現への責任を纏い始めた、本当の意味で大人になった1枚だと思う。個人的に引っ越しをした年でもあったので余計に響いた。

*28:ラジオアプリGERAで放送中の番組。始まったのは昨年10月からだけど、この1年の勢いがとにかくすごかった。自分の2021年は、間違いなく情熱スリーポイントとともにあった一年だった。

*29:「喧嘩が強い」と嘯く作家の秋葉をからかう太田と、そこから「自分と太田どっちが野球が強いか」論を引き合いに出すウーチャカによる口論の再現トークという、太田光の十八番。「どっちが野球が上手いかなんて計りようがない」という持論を通したいがあまり、「俺より大谷翔平のほうが上手いに決まってるじゃん」という太田の極論に「いや、それはわからない」と返すウーチャカっぷりが最高。50代後半とはとても思えない2人のめんどくささが爆発していて、大笑いしながら胸がいっぱいになってしまった。

*30:迷わず1位。ただただ凄かった。あの瞬間は、間違いなく今年のベスト体験。

2021年11月の記録

なんだかやたら忙しく、M-1の動画を追うので精一杯の日々を送っている。M-1の予選に行くたびに、「自分のやりたいことをやりたいだけできる無法地帯のような空間もいいけど、同じルール同じ制限時間で戦ってるからこそ各コンビの固有性が溢れ出るこの感じがやっぱり一番好きだな」と思う。3回戦はちょっと書ききれないので省略するけど、準々決勝だと三遊間、ニゲルベ、もも、フースーヤ滝音さや香、侍スライス、からし蓮根、丸亀じゃんご、令和喜多みな実、キンボシ、マリオネットブラザーズ、ニューヨーク、かもめんたるロングコートダディ、ラパルフェシシガシラ、男性ブランコ、軟水、コマンダンテ、キュウ、ランジャタイ、ダイヤモンド、真空ジェシカ、錦鯉、マユリカが特に好きだった。しかし個人的な好みで言うとかもめんたるがダントツ優勝。「円盤」と呼ぶ人への単なる偏見やヘイトではないのが本当にうれしい。「そういう人が握ったおにぎり全然食べます」みたいな、ものすごくニュアンスなのに説得力のあるセリフを作らせたら岩崎う大の右に出る者はいないなと思う。ニゲルベの台本の美しさにも惚れ惚れしたし、ダイヤモンドの意味を超えた先にある響きの面白さにも圧倒される。ランジャタイのあるワンシーンには死ぬほどときめいたし、さや香の話芸としての美しさには心底感動した。みんなすごい。

囲碁将棋の単独ライブ「WITH AMZING VIEWS 2021」をルミネで見た。情熱スリーポイントでのリスナーとの距離感で、つい近しい存在のような親近感を覚えてしまうけど、とんでもない。そこにいたのは、満員のルミネtheよしもとをマイク1本で沸かせる、間違いなく日本一の漫才師でした。おおげさでもなんでもなく、全着眼点、全固有名詞、全言い回しに自分の性癖レベルの好きが詰まっていて、90分間笑いながらクラクラしていた。例えば多額の借金を抱える理由が「学校のプールの栓の閉め忘れ」だという、それだけでめちゃくちゃ囲碁将棋だ!とうれしくなってしまう。もともと囲碁将棋は賞レースにそこまでアジャストするようなタイプでもないので、M-1卒業後の〜とかそんなのはあまり関係ないと思ってるけど、17年目にして漫才師としてのキャリアハイを迎えている気がする。基本的に自由度は高く、かといって賞レースで勝負できそうな強度のネタもあって、車事故のネタなんかは、バラシの山場から中盤のパンチライン後半の逆転劇までとても綺麗で、これをガチガチに4分にまとめれM-1の決勝に行ってたのではと思うほど。これからも、ずっとただただ漫才をやっていてほしい。

第十回 街裏ぴんく独演会「hardliquor」@渋谷伝承ホールへ。やっぱりホール会場が抜群に似合う。餃子の王将の店員が餃子片手に街中を歩き回るという比較的ポップなナンバーから始まり、焼津にある望郷独居濾過局というビル内で行われたコミュニティFMの収録、ボンベで自動的に寿司が提供される高級寿司屋、ホテルのロビーに固執するおじさんの演説、突然にこにこぷんぽろりが出てくるVHS、回送電車に乗ってたどり着いたとある場所についてなど、相変わらずマイク1本でめくるめく異世界へと誘ってくれる。そのたび大笑いをしながら脳が揺れるので、座って話を聞いてるだけなのにどっと疲れてしまった。帰り道に改めてぽろりの顔を調べてみたら思っていた以上に怖かった。確かに一番肉食顔だし、強い思想をグッと堪えたような顔をしている。

アーカイブの期限が切れるギリギリまで迷いに迷って、結局「大喜利マスターズトーナメント」を見た。ダイナマイト関西は、無限大でやってたプレ予選やD関無双を含め、2010年代の関連イベントほぼすべてに通ったくらい思い入れのあるイベントなので、この似て非なる催しを見ることで完全に自分の中のD関が終わってしまうのではないかという逡巡があったのだ。大喜利番組がスタートした頃のQJのインタビューや、大会のMC、Twitterなどでのあの苦々しい感じ、プレ予選での解説席の異様なピリつき、バッファロー吾郎のインタレスティングプロデューサー退任からの大会自体のフェードアウトと、決して大団円とは言えない終焉を迎え、ビターな余韻を残し続けたダイナマイト関西が、形を変えて復活する。でもそれは本当のダイナマイト関西はもう復活しないという宣言でもあるわけで。改めてD関完全終了の事実を突きつけられたような寂しい気持ちをどうしたって覚えてしまった。そして「大喜利マスターズトーナメント」は、形式的には思ったよりもD関で、中身は思ったよりもD関じゃなかった。そして何よりコバが「モンチェン」を言ってくれなかったのが一番寂しかったかもしれない。

爆笑問題カーボーイ」11月23日放送回のオープニングトークが、もう今年のすべての中で一番。何回聴いても「そんなのあり!? もう俺うれしくなっちゃったよ」でゲラゲラ笑ってしまう。やたら自分を卑下するウーチャカ、謎の評価をする作家の秋葉、「西城秀樹の目」というフレーズなどなど、聴きどころが盛りだくさんで、やっぱりこういう再現トークをやらせたら太田光は天才的に上手いなと思う。太田光田中裕二という人間の面倒臭さがこれでもか凝縮されていて、この世に存在する人と人の関係性の中で、やっぱり爆笑問題が一番好きだと改めて思った。思い出したようにひさびさに名作マンゴープリンを聴きいたら、つくづく最高。人と人の関係ってそう単純じゃなくて、複雑で歪だよなあ。

でも今月一番笑ったのは、結局「ワイドナショー武田鉄矢かもしれない。

いろいろあってParaviに一時的に加入することになったので、前クールのテレ東ドラマ「うきわ ―友達以上、不倫未満―」を一気に見た。役者、演出、脚本、音楽のどれもが押しつけがましくなく、さりげなくハイクオリティ。門脇麦のすばらしさはもはや多言を要しないけど、森山直太朗が完璧にハマってる。浮き輪、ドーナツ、ろくろ、指輪…といった輪っかのモチーフや、横並びと対面を意識した構図(最終話の、横並びになりながら向かい合うカラオケボックスのシーンの素晴らしさ!!)も気が利いているし、何よりシンプルに映像の感度がめちゃくちゃよくて、特に2話と7話冒頭にやられてしまった。
「エターナルズ」はシンプルにあの暗い画面を3時間近く見続けるのがしんどかったな...。急につらつらと説明が入る感じとか、ファストスが復帰する時の雑な転換とかも冷めてしまった。

Snail Mailやeverforのアルバムをよく聴いた。あと、やっぱり秋はプライマル・スクリームの1stだよなあ〜とか思いながら聴いてる途中で「いや俺が一番好きな『Silent Spring』って思いっきり春って言ってるじゃん」となる、というのを毎年やってる気がする。
Horsegirlの新曲、90'sオルタナマナーに綺麗にのっとっているのだけど、えも言われぬ特別さを感じてしまう。


正体不明の宅録アーティスト・Perfect Young Ladyのカセットは大好物。ヴェイパーウェイブなんて言葉に回収されない、80's歌謡の華麗なる再構築。これがレトロ・フューチャーな音像にこだわり続け、つい最近太田貴子の楽曲を現代に甦らせたayU tokiOが主宰するレーベル・COMPLEXから出ているのは紛れもない必然だ。もう今はCOMPLEXとNEWFOLKしか信用できなくて、そんな2つのインディーレーベルが邂逅するわがつま初ライブに行けないのは本当に忸怩たる思いだ。
阿佐ヶ谷ロマンティクスがひさびさにアルバムを出すらしく、地味にうれしい。1stアルバム「街の色」は10年代中盤の団地系音楽(勝手にそう呼んでるだけだし、「街の色」のジャケットは多分アパート)の中でも特に好き。最近の新曲を聴くと、音楽的なアプローチを広げようというトライ&エラーを感じられた。

カネコアヤノの武道館公演を観に行く。間違いなく今年のベストライブ。数年前までモナレコードのライブスペースとかに立ってたというのがにわかに信じられないくらい、武道館のあの広い舞台がとてつもなく似合っていた。どれだけ広い会場でも、あの歌声の持つ熱量は変わらず隅まで届くし、カネコアヤノは全員と1対1の関係を結んでしまう。中でも「退屈な日々にさようならを」が圧巻で、この曲のあのパフォーマンスだけでも、いつもと違う広い会場でライブをやった意味があると思えるほどだった。「世界のことなんて知りたくなかったのに」と拗ねたフレーズを大舞台で吐いてしまう「序章」や、かたや「気づけば怖いくらい強くなったね」と歌う「閃きは彼方」にもグッときた。 しかし何と言ってもハイライトはアンコールラストの「アーケード」。客電が点いて会場全体が白い光に包まれたその瞬間、1対1から1対全員になったと思う。2階席から見下ろしたアリーナ席にいる無数の人々の全員が、自分の中から自然発生的に湧き出た動きをしていて、その光景が涙が出るほど美しかった。ライブで手を振り上げる人とか、手拍子する人とか好きじゃないけど、この日のこの4分間だけは会場にいた全員のことを心から等しく愛せたぜ。全部正しいから生きていこうな。

だれかが想いを燃やす 恋もキスも たのしい
わたしの花は枯れない 一生枯れさせない
今夜も月がきれい それだけでしあわせ
あなたの花は枯れない 一生枯れさせない

(カネコアヤノ「とがる」)

11月でもっとも好きなあるあるは「見るたび驚く、バラエティでの堤真一の関西弁」でした。